「木を見て森を見ず」ではなく…

《やっぱり人材。当然ですけど、グローバルだけでは経営できないですよね。ローカルだけでも経営はできない。世界はつながっているわけですよ。グローバルのことも理解しながらローカルの事情に合わせて(やっていく)》

《もっと言ったら、1店舗ずつの個店経営。服の場合は色とサイズが全部違いますよね。だからそういうSKU(在庫管理単位)経営が必要なんじゃないかと考えてます》

《そういった技術はすでに開発されているが、それを全部繋げなきゃいけないんですね。そういう風なエンドツーエンドでできる人、デジタルの世界でもそうですけど、感性の世界でもそうですよね》

《結局、数学の世界と感性の世界の到達点は、いかにお客様の生活にプラスになるか。社会にとってプラスになるか、というところに尽きるのではないかと思うので。そういうことができる人材、チームを各地でつくっていかなきゃいけないんじゃないかなと思います》

「木を見て森を見ず」ならぬ「木を見て森を見る」人材というところが、柳井氏の人材論の中核を成している。細かいところばかりでもダメ、現場を知らずに大雑把に掴むだけでもダメ。こうした人材の育成については、経営学の分野でも研究が進んでいる。

 例えば、2002年にデニス・シャーウッドの著作『木を見て森を見よ:システム思考を適用するためのマネージャーガイド』は、まさしく「木を見て森を見よ」の人材論が展開されている。

「システム思考」とは、問題を個別に見るだけではなく、全体として理解することである。ビジネス(に限らず社会全般にも言えることだが)は、複数の要素が相互に影響し合い、一つの要因の変化が他の要素にも連鎖的な影響を及ぼすという「つながり」を前提にしている。