「変われないなら死ぬしかない」

 例えば、企業が特定の商品を値下げした場合、その影響は売上だけでなく、顧客の満足度、競合他社の対応、従業員の評価など多方面に波及する可能性がある。システム思考は、このような複雑な関係を理解し、最適な意思決定を支援するものだ。

 単純な例を挙げるとすれば、こんなところだろうか。

(トラブル)

 新しい顧客が増えるにつれて、顧客対応が忙しくなり、サポート部門の負担が増加。すると、顧客対応の質が下がり、クレームが増えるようになった。

(従来のアプローチ)

「サポート部門の負担」を減らすために、人員を増強するなどする。

(システム思考のアプローチ)

 そもそも「なぜクレームが増えるのか」を全体的に見直す。

 他にも「売り上げを伸ばしたいのに、在庫が不足しがち」というときに、単純に在庫を増やすのでは他の商品に影響が出て、管理コストが増えてしまう。

 そうではなくて、製造部門との調整や、原材料の確保、物流のスケジュール管理など、多くの要素を総合的に解決するアプローチが大事ということだ。

 こうした思考法を社員一人ひとりに持ってもらうというのが、柳井氏の人材論なのである。さて、ここで、冒頭のゾウの話に戻ろう。

 柳井氏は、人的資源をいかに活用するかという課題について、こう語っている。

《わたしはよくゾウの話をするのですが、ゾウの尻尾だけを見ていてはゾウと想像できない。鼻だけを見ても想像できない。全体の姿があって、ゾウというものがあるのです》

《それを俯瞰的に、全体観をもって見るのが大事なので、世界とは何か? とか、人間とは何か? 生きるとは何か? 組織とは何か? そういう本質的なことを勉強しない限り、知識だけの単なる専門家にしかならないし、そういう専門家では成果が出ないと思います》
(財界オンライン、同)

 社会は複雑に絡み合っているのであり、高い視点で課題を解決できるような人間になりなさい。柳井氏は一貫して、同じことを繰り返し説いていることがわかる。

 2011年にの全社員向けの訓示では「CHANGE OR DIE」(変われないなら死ぬしかない)と伝えた柳井氏。狭い視野で右往左往するのではなく、変わらなくてはならない。