特集『わが子が伸びる中高一貫校&塾』の#21では、ついに完結を迎えた中学受験漫画の金字塔『二月の勝者』(小学館)と筆者がタッグを組んで、中学受験生を持つ親たちに届けたい「必笑法」を漫画のコマと共に掲載する。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)
「親の未熟さ」をあぶり出す
中学受験というイベント
中学受験漫画の金字塔『二月の勝者─絶対合格の教室─』(小学館)が今年、6年を超える連載を経てついに完結した。
同作品は、「桜花ゼミナール」という架空の中学受験塾を舞台に繰り広げられる、カリスマ講師の黒木蔵人と新米講師の佐倉麻衣、そして同塾吉祥寺校6年生とその親たちの苦悩と成長の物語だ。この全21集に及ぶ大作の名場面と、拙著『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)がコラボし、互いのエッセンスを1冊に詰め込んだのが『「二月の笑者」になるために』(小学館)だ。
ここでは、その中から特に中学受験を間近に控える親に届けたい六つの名場面と『中学受験「必笑法」』に記したメッセージを選んで掲載した。
中学受験は「親の未熟さ」をあぶり出すイベントだ。教育虐待をしてしまう親のほとんどは、「あなたのため」だと思い込んでいる。中学受験の最悪のシナリオは、受験に失敗することではない。子どもや親自身、そして親子関係が壊れてしまうことだ。その意味で、中学受験は親子を壊す凶器になり得る。中学受験そのものが悪いと言いたいのではない。“やり方”が間違っているのだ。
『二月の勝者』で当初、冷徹な合格請負人として描かれる黒木は、子どもたちを前に「君達が合格できたのは、父親の『経済力』そして、母親の『狂気』」(第1集 第1講「二月の挑戦」)と露悪的に登場する。だが、彼の中学受験観が彼の人生観に裏打ちされていることは、作品を通して読めば分かる。
『二月の勝者』の作者である高瀬志帆さんは、『「二月の笑者」になるために』のあとがきで、「黒木蔵人が腕に巻いているミサンガは、夢の象徴です。彼はいろんなことに挫折しながら、何度も、ミサンガを、新しい夢を、巻き続けてきた主人公です。この漫画で描きたかったことのひとつ。『何度でもやり直せる』」と明かした。
この黒木の生き方は「傷つくことは決して悪いことじゃない。むしろ傷こそが、そしてそれと真摯に向き合い続けることこそが、人を魅力的にし、その人生を輝かせるのではないか?」と教えてくれるように、筆者には思える。
中学受験を「笑顔」で終えられる親子とは、さながら黒木のように、子どものみならず親自身も、中学受験を通して傷つきながらも自らを変え、人間的に成長できた親子である。
次ページから掲載する漫画の名場面と筆者のメッセージが、その気付きになれば幸いだ。