そこから、消費と所有に支配された状況から脱却して「人生の主導権」を取り戻すという発想が生まれる。

物質主義に支えられた
消費社会への対抗文化

 ミルバーンはミニマリズムのことを「有意義な人生を送るため、不必要で過剰な事物をそぎ落とすためのツール」(同上)とコンパクトに説明している。これは、人生のコントロール感の回復を目指すお片付けや断捨離と通底するものである。

 ただし、ミニマリズムの出発点はあくまでもメインカルチャーへの対抗である。

 ミルバーンが前掲書で、反文明的な思想を持つ主人公が巻き起こす騒乱を描いたチャック・パラニュークのカルト小説『ファイト・クラブ』(早川書房、1999)とその映画版からいくつかの引用をしているように、ミニマリズムは消費と所有を重んじる現代社会の潮流に対する異議申し立てがセットになっているのだ。

 本来的な意味でのミニマリストを突き動かしていたのは、人々の購買意欲をかき立てる広告への違和感であり、それらに巨額の資金を投入する大企業に対する反感である(このような事情は、ミニマリストたちの人生や専門家のコメントなどで構成したドキュメンタリー映画『ミニマリズム 本当に大切なもの』〈原題=Minimalism: A Documentary About the Important Things/監督=マット・ダベラ、2015年〉を観れば手に取るようにわかるだろう)。

 要は、テレビやインターネットに氾濫する商品やサービスに関するCMが、知らず知らずのうちにわたしたちの意識に刷り込まれ、不必要な消費に乗り出すよう促していると考えているのだ。

 日々大量の情報を浴び続けているだけで、買いたくもない商品を買い、流行に乗り遅れまいと行列に並び、新しいライフスタイルへと舵を切るためのアイテムを揃えるべく躍起になるよう仕向けられている、と。

 ミニマリストたちの主張からも読み取れるように、元来ミニマリズムは物質主義に支えられた消費社会への対抗文化であり、低成長時代への適応と体験の重視、持続可能性の志向に支えられた、強固な核を持つ思想なのである。

イデオロギーから
生活防衛の手段へ変化

 このような来歴とバックボーンを持つミニマリズムが、2010年頃にシンプルライフの提唱者として知られるドミニック・ローホーの著作などを通じて日本でも取り入れられるようになった。