バボータはこの本で「『大切なこと』だけに集中して、それ以外は取り除いてシンプルにする――。これだけであなたの毎日は楽しくなる。ストレスだって減る。それに意外だと思うかもしれないが、今までよりもずっと生産的になれる」と述べた。
このような思考は明らかにミニマリズムと相似であり、両者は幸福志向という共通点を持っている。現在まで続く時間管理系のビジネス書を牽引している省力的な方向性といえる。
昭和的な根性論ではどうにもならない状況であることがはっきりすると、無理に競争社会に参加するよりも、最初から別の土俵で生きていくほうが賢明な判断と思うようになるのはごく自然な成り行きである。
将来的に年収の上昇が期待できず、結婚や子どもを持つといった家族形成が困難になり、人口の再生産どころか目の前の生活不安に対処しなければならない――これが「失われた30年」の酷薄な現実であった。
自意識をくすぐる物欲から距離を取り、モノに振り回されない見識を持ち、もともとある能力を最大限効率的に運用することで、幸せな人生を歩むことを目指す方向性といえる。
「何かを足していく生き方から、余計なものを引いていく生き方」への転換である。引き算なので実践のハードルが低いのがポイントだ。
当たり前だが、何かを買うために必死に働くよりも、いらないモノを捨てるほうが簡単である。第一お金がかからない。暇さえあれば誰でもすぐに始められる。生活の品々から無駄なものをそぎ落とせば、それだけ身軽になれるし、空間的な余白も増える。
そもそもモノやサービスを購入するためには、その分働いて収入を得る必要があるが、何かを捨てるために余分に仕事をする必要はまったくない。ゴミに出すだけでいい。
そして本当に必要なものとは何かを徹底的に吟味すれば、出費を大幅に減らすことができる。そのようなコストダウンによって、あくせく働かずとも暮らせる余裕ができれば、結果としてストレスは小さくなり、貯蓄もできるかもしれない。時間の有効活用も可能になるというわけである。
これこそが多くの人々を日本型ミニマリズムの実践に向かわせる大きな動機といえる。それによって幸福度も上がるのであれば、一石二鳥どころか一石三鳥だろう。