最初は、ごく一部の界隈に留まっていたが、少しずつ実践者が増えていき、2015年頃を境に「ミニマリスト」という生き方が一般にも知られるようになった。

 けれども、物質主義に対するエリート層の反動としての側面は次第に薄れていき、節約と節制を旨とする生活防衛、雇用や報酬の不安定さから身を守るサバイバリズム(生存主義)の側面が強くなっていった。

 また近年、お金をいかに貯めるかという貯蓄術、お金をいかに増やすかという資産運用の要素まで加わることになった。

 とりわけ日本では、モノの所有を減らし、生活サイズを小さくするミニマリズムの実践を、コストパフォーマンスの観点から高く評価する「日本型ミニマリズム」とでも評すべきものが現れた。お金の管理も含めた自己防衛の手段としてのミニマリズムであり、「蓄財系ミニマリスト」を名乗る人々すら登場している。

 筆者は、2009~2010年頃から顕著になってきたお片付け、断捨離、ミニマリズムのムーブメントを、伝統的な「足し算」型の自己啓発から「引き算型」の自己啓発へと重心が移り変わる転換期とみている。

「足し算型」は、分厚い中間層に下支えされたもので、競争社会に勝ち抜いて欲しいモノは手に入れるという物質主義の肯定、そしてそのために自分の職業上の能力などを向上させることが念頭にあった。

 右肩上がりの時代の感覚がいまだ抜けず、「好きなことを仕事にする」的な自己実現願望に駆動されている面もあった。これは従来からある自己啓発のスタンダードで、今後も命脈を保っていくことだろう。

 これに対して「引き算型」は、中間層の分解に対応するためにアップデートされた新時代の自己啓発といえる。これは「より少なく、より良く」というビジネスマインドの世界的な潮流と軌を一にしており、自己啓発2.0と位置付けることができるだろう。

小さくまとまったほうが
幸せになれるかもしれない

 この転換期の「自己啓発本」としては、シンプルライフを提唱するアルファブロガーの元祖、レオ・バボータの『減らす技術 The Power of LESS』(ディスカバー・トゥエンティワン、2009)が好例だ。