東レが12月1日からネット限定で発売した風呂掃除用クロスの「トレシー スポンジミトン」。価格は1枚945円と、掃除用スポンジの類としては高いが、「宣伝もしていないのに、予想以上の問い合わせが来ている」(幹部)と、関係者は手ごたえを感じている。販売目標としては初年度が1万枚、3年後に5万枚と控えめだが、取り扱いを求める小売りからのラブコールも相次いでいるという。

 この製品の最大の売りは、「風呂上りに洗剤を使わなくても、湯あかや皮脂汚れをさっとふき取れる」(東レ)こと。“洗剤を使わない”という言葉に敏感で、かつて抗議に出たこともある洗剤業界も、今回は「洗剤なしでもある程度の汚れは取れますが、頑固な湯垢は落ちないこともあります」と東レが注意書きを加えたからか、今のところは静観の構えだ。

 実はこの製品は、トレシーというブランド名からも明らかなように、メガネ拭きのトレシーで使われている素材にナイロンを混ぜ合わせたものだ。トレシーの発売は1987年。当時、ブラウス用ポリエステル素材として開発したところ、袖口が汚れやすいという問題が発覚。問題点を逆手にとって、メガネ拭きとして製品化し、爆発的ヒット製品となった。

 素材としての強みを生かしながら、用途開発を常に続けている貪欲さが東レの強みだ。

 2003年にはテレビで「メガネ拭きで洗顔すると泡立ちが細かく、泡汚れがよくとれる」と紹介され、一大ブームとなった。そのときには、ボディタオルや油とり用クロスなど、スキンケア製品を重点投入した。

 さらに2006年にはトレシーの繊維を利用したマスカラ「エブリュム」を発売。プラザなどの雑貨店でヒット商品となった。

 その東レが掃除用品に目をつけたのは、「毎日、風呂上がりに水滴といっしょに垢を拭き取るだけで、風呂を長くきれいに使えると、ユーザーにも勧めている」という掃除専門業者の話を聞きつけたからだ。ミトンという手袋の形状にしたのも、使い勝手の良さを追求した結果だ。

 トレシーの売り上げそのものは「東レの売り上げのなかでは微々たるもの」(幹部)と公表されていないが、この繊維不況下にあっても「利益は出ている」と首脳陣も認めている。

 20年前に開発された素材の用途開発を間断なく続け、価値を創造することで、黒字事業に仕立て上げるしたたかさ。まさに、東レの面目躍如たる商品といえる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)