現象5
「50万円の壁」という謎の壁の出現
11月25日にテレビのキー局が一斉に「50万円の壁の引き上げ」についての報道を繰り広げました。正直50万円の壁という言葉を私は聞いたことがありませんでした。その壁について確認しただけでもTBS、テレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京で同様のニュースを流していたのです。
報道の中身をまとめると、これまで働く高齢者について在職老齢年金制度に50万円の壁があって、収入がそれを超えると給付される厚生年金が半分に減るというのです。
厚生労働省としてはその壁を将来的に撤廃する方向で、当面62万円程度に引き上げることで、高齢者の働き控えをなくすというのが報道の内容でした。
ところがこの情報、トリックがありました。よく聞いてみると50万円という数字は年収ではなく月収です。年収の壁として再計算すれば実は「600万円の壁」の話でした。それを政府は年収744万円にまで引き上げるというのです。
これは政策としては高所得者の優遇政策です。現役時代は年収1400万円だった幹部ビジネスパーソンが、65歳になり嘱託として会社に残ったら同じ仕事でも年収が半減して700万円になるというケースがよくあります。
「それだと年金が減額されるから働く気がおきないや」と言って、引退する人が出てくるのを防ぐというのが今回の政策でしょう。
テレビ東京の報道によればこの恩恵にあずかる高所得年金層は15万~20万人ということです。対象となる人数規模が小さいので、政府も新制度に移行しやすいのでしょう。
とはいえ低所得のパート労働者の「106万円の壁」が高くなるのと比較すると「600万円の壁」だけすんなりと優遇するというのは国民感情的を逆なでする議論に感じるのは私だけでしょうか?
最大の問題点は
「リーダーシップの不在」ではないか
では、これら一連の壁についてのちぐはぐな議論は何が問題なのでしょう?
私はこの件の最大の問題点はリーダーシップの不在だと思います。もともと与党はこの政策をやりたくないのです。背後にいる総務省、財務省、厚生労働省、全国知事会も同様です。