とはいえ、国民民主党に国会での議決の喉元を握られてしまったので妥協せざるを得ない。だから賛成しているように見えるようにしか動きません。
一方で言い出しっぺの国民民主党は野党ですから、立法でも行政でも影響力を行使するまでが限界で、リーダーにはなれません。
問題に本気に取り組むリーダーがいないとなると関係者はやりたいことをやるようになります。この話を攻め口にしたい人は「103万円の壁」という言葉を使いますし、潰したい人は7兆~8兆円を争点にします。与党にとって重要なことは「消費の拡大」ではなく「予算の可決」ですから、その範囲で被害の少ない落としどころを模索します。
そして予算が減ると困るひとたちがその7兆~8兆円の数字を利用して動きます。知事たちは税収減と引き換えに予算を増やすように働きかけます。厚生労働省がこの機会に比較的裕福な高齢者の年金支給額を増やそうとしているのに至っては、その政策の意図すらよくわかりませんが、過半数割れした与党の手綱が緩んでいることは十分に感じられます。
予測としては最終的に壁を178万円ではなく国民民主が妥協できるもう少し(またはかなり)低い線を落としどころに決着するでしょう。できれば税収は大きくは減らさず、政府支出は予定通りないしは焼け太りの形で増やす。リーダーが本気でないことがわかっているのでやりたい方向に物事が動いている。それが今、目の前で動いている「壁もどきの議論」の実態ではないでしょうか。
このままだと結局のところは、本来の「103万円の壁撤廃論」が考えていた弱者救済とパート労働者がもっと働く時間を増やすという効果はほぼゼロになってしまうでしょう。
でも与党は予算案を通せるし、国民民主党も参院選で議席を増やせるし、行政は予算が増えそうです。関係者は皆、それぞれ得をして、経済弱者だけが置いていかれる構図です。
「壁もどきの議論」が争点になってしまった日本の未来はそのような、弱者にとって悪い方向に向かって動いているとしか思えません。