野党である国民民主党の政策を部分的に取り入れなければ、与党の政策が行き詰まる状況が生まれました。結果、この103万円の壁の引き上げが世間からの注目を浴びるようになるのですが、その中身は古くからあった「103万円の壁論」とは異なる内容になったのです。
現象2
政府試算の7~8兆円という数字の出現
選挙直後、政府は課税水準を103万円から178万円に引き上げると国と地方合わせて7~8兆円の税収減になるという公式試算を発表します。一方で引き上げ水準を107万円程度に抑えれば税収減は数千億円程度で済むと試算しました。
試算したペーパー自体が開示されていないので詳細がわからないのですが、日本の就業者数6700万人が平均12万円減税されるとすれば税収減は確かにこの規模になります。
この政策の狙いを推測すれば、国民の中間層から富裕層にかけて手厚く7~8兆円分の減税をして消費拡大を狙う経済政策だと考えられます。
経済政策として捉えると、その是非は減税に見合った形で経済成長がもたらされるかどうかが尺度になるはずです。減税という投資をすることで、消費拡大という見返りが起きるかどうかを考えるべきなのです。
ところが以後、この7~8兆円という数字だけが独り歩きを始めます。税収減をどのような財源で補うのか?数字が大きすぎるから減税は無理じゃないか?というように、議論の論点が数字へとすり替わっていくのです。
現象3
地方からの反対
この試算を受けて、経済弱者である地方自治体の首長たちがつぎつぎと税収減への反対を表明します。各自治体とも「北海道は500億円、税収が減る」「四国四県で住民税が983億円の減収」「地方自治体全体で1割減」というように具体的な数字を伴った反対が起きます。
全国知事会は103万円の引き上げで地方税収に5兆円規模の打撃があると主張して、自民党に配慮を求めました。25日に政府が首相官邸で開いた全国知事会では、石破首相に減収分は恒久的に補填してもらいたいと要望を伝えます。
それを受けて石破首相も所信表明演説で「新しい地方創生交付金の倍増を前倒しで措置する」と地方への支出増を約束することになりました。