AI分野のエヌビディアはその典型だ。持てるリソースの全てを世界が求める生成AIなどの先端分野で価値を発揮する半導体の設計・開発に投入し、今や時価総額は世界1位になろうとしている。
このように、製造技術か製品技術のどちらかに資源を集中させて世界のトップをねらう企業を相手にして、両方を保有して、資源を分散的に、調整しながら投入していく企業は明らかに分が悪い。
にもかかわらず、長らくコンピュータ用CPUで業界トップに君臨し続けてきたインテルでは、垂直統合型ビジネスモデルの不利が顕在化するまでに時間がかかってしまい、変革の機を逸してしまったのである。
なお、垂直統合型ビジネスモデルを維持しながらも好調な業績を維持できているもう一つの例外が、サムスンだ。サムスンは、DRAMという特定分野でのトップを長らく維持している企業である。
インテルに比べてサムスンが幸いだったのは、CPUの市場が衰退気味であった一方で、DRAMの市場は堅調であったことだ。今のところ、バランスよく製造技術でも先端を維持しながらDRAMでも優れた製品を出しているが、今後の動向に注視したい。
垂直統合は“劣った戦略”ではない
「勝ち切るシナリオ」が重要
ただし、垂直統合戦略はもはや時代遅れで、常に劣位となってしまう戦略なのかと言えば、そうではないことを最後に伝えておこう。
垂直統合型で成功した例も、決して少なくはない。その最たる例はユニクロである。
「製造」と「販売」が分かれていることが一般的だったアパレル業界で、製造を自前で抱えることにより、生産計画や在庫のコントロールを可能とし、良い品質の商品をより低コストで調達することに成功している。
家具のニトリも同様だ。仕入れて売るだけでは他社に秀でた製品競争力を得られないと判断したニトリは、自前での開発・生産に踏み切り、他社にはない製品を「おねだん以上」で提供することを通じて、国内で圧倒的トップに躍り出た。
つまるところ、垂直統合が望ましいか、それとも絞り込みが望ましいかという「形の上での最善解」は存在しない。業界の他社に対して、どちらが優位を作り出せるのかという「勝ち切るためのシナリオを描けるかどうか」こそが、事業モデル選択におけるカギとなる。
長らく寡占状態が続く中で、インテルの事業モデルの不適合が顕在化するまでに時間を要した。その間、TSMCなどの競合には数年分の技術的なリードを作られてしまった。
インテルがここから、いかなる「勝ち切るシナリオ」を描いてくるのか、興味を持って見ていきたい。