高速化を想定していなかった
ローカル線としての智頭線

 当時、大阪~鳥取間の所要時間は、山陽新幹線で岡山まで出て、津山線・因美線経由の急行「砂丘」への乗り継ぎが4時間弱、大阪駅から播但線経由の特急「はまかぜ」が4時間強、姫新線経由の急行「みさき」が5時間弱を要していた。

大阪~鳥取間にはさまざまな経路の優等列車が運行されていた(オープンストリートマップで作成)大阪~鳥取間にはさまざまな経路の優等列車が運行されていた(オープンストリートマップで作成) 拡大画像表示

 播但線と津山線は明治期、因美線と姫新線は昭和戦前期の建設で、抜本的な速度向上は困難だったため、智頭線は高速運転を前提としたバイパス路線を目指すこととした。

 こうして工事は1987年に再開したが、ローカル線としての智頭線は設計速度時速90キロの設計であり、高速化を想定していなかった。そのままでも所要時間を3時間弱に短縮できたが、高速バスはすでに、1983年全通の中国自動車道経由で同区間を3時間15分で結んでいた。

 鳥取自動車道の建設も始まっており、鉄道のシェアはさらに低下していく見込みだったことから、大阪~鳥取間を2時間30分台で結ぶため、智頭線内での時速130キロ運転と因美線の高規格化からなる高速化事業を1991年に追加決定した。

 智頭線は総延長約56キロのうち約32キロが直線だが、トンネルでショートカットしつつも山間部を走るため、約24キロが曲線部だ。鉄道の制限速度は、カーブを曲がり切れない転覆限界速度より手前に、遠心力で体が振られてしまう乗り心地上の制限が設けられている。

 そこでカーブの線路形状の変更、軌道の強化や振動対策、レールのロング化を行うとともに、JR四国の予讃線特急「しおかぜ」や、JR東日本の中央線特急「あずさ」に用いられる、曲線通過時に車体を傾けて遠心力を軽減する車体傾斜車両を導入し、カーブの制限速度を緩和した。

 曲線半径800メートル以上の区間約15キロで時速130キロ運転が可能になり、それ以下の約9キロの区間でも速度が向上。400メートル以上800メートル未満の区間約8.3キロでも時速100~125キロで走行が可能になった。