兵庫県の上郡駅と鳥取県の智頭駅を結ぶ鉄道事業者、智頭急行は12月3日で開業30周年を迎えた。同社は鳥取県を筆頭に、兵庫県、岡山県や沿線自治体が株式を保有する第3セクター鉄道だ。全国には旧国鉄の特定地方交通線、JRの新幹線並行在来線を転換した3セク鉄道が47社存在するが、その中でも智頭急行は「優等生」と称される。地方鉄道の苦境が唱えられる中、なぜ智頭急行は成功したのだろうか。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
4期ぶりの黒字決算
コロナ危機を脱した智頭急行
智頭急行を代表するのが大阪駅(一部・京都駅)と鳥取駅を結ぶ特急「スーパーはくと」だ。大阪から鳥取へは、自動車であれば中国自動車道・鳥取自動車道経由で2時間40分程度(休憩なし)。同ルートを走る高速バスも3時間弱で到着するが、「スーパーはくと」は、同等以上の最短2時間32分で走破する。
大都市と地方都市を結ぶ都市間輸送は、高速道路網の整備が進むにつれ鉄道が不利になりがちだが、智頭急行は単線非電化路線ながら、最高速度時速130キロの高速運転を行い、競争力を保っている。
また岡山駅から上郡駅を経由して鳥取駅に向かう「スーパーいなば」も智頭急行を経由する。岡山~鳥取間はかつて、津山線・因美線を経由する急行「砂丘」が約2時30分程度で結んでいたが、智頭急行を活用することで最短1時間50分まで短縮した。
兵庫県赤穂郡上郡町、佐用郡佐用町など沿線ローカル輸送としての役割もあるが、輸送人員の約8割(2023年度)は「スーパーはくと」「スーパーいなば」によるもの。しかも、これら利用者のほとんどは上郡~智頭間の全区間を利用し、特急料金まで支払ってくれるのだから、特急列車が経営の中心にあることが分かるだろう。
今年6月3日に発表された2023年度決算は、2019年度以来4期ぶりとなる経常利益は約8460万円、純利益が1億6402億円を計上した。2019年度比で経常利益は約1億3404万円減と完全復調には程遠いが、危機は脱したと言える。
そもそもコロナ前ですら、国鉄・JR転換型3セク鉄道47社のうち経常黒字だったのは8社しかなく、国鉄転換路線では智頭急行がダントツの1位だったのだから、「優等生」どころか「首席」と言った方が正しいだろう。