パワハラする人は「相手に対する敬意」や、「相手の価値観」に理解がない

――若林さんも、パワハラを受けたご経験はありますか?

若林杏樹(以下、若林) まだ漫画家としては売れていない時期にアルバイトをしていた飲食店で、非常に理不尽な思いをしました。

その職場では、私しかパソコンを使えなかったので、店長から大量のデータを抽出して表を作る業務を頼まれたんですが、私もそういった作業はしたことがなくて……。

「そこをなんとか」と頼まれたので完璧にするのは難しい旨を伝えた上で進めていたんです。でも、いったんできたところまでを店長に提出したときに「こんな内容では困る!」と烈火のごとく怒られて。以前から相談もしていたのでおそらく機嫌が悪かったのだと思うのですが、ものすごく腹が立ちましたね。

【あなたは大丈夫?】気づかないうちに「パワハラ上司」にならないために気をつけるべきこととは?若林杏樹(わかばやし・あんじゅ)
漫画家
大河内薫氏との共著『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)は発行部数29万部突破のベストセラーに。「年収1300万円の婚活女子」としてネットニュースで話題になるなど、インフルエンサーとしても活躍中

――わびさんも若林さんも理不尽な思いをされているのですね。本書で「パワハラ加害者として訴えられる方は、あくまでも『自分は正しいことをしている』と思っているケースがほとんど」とありましたが、「パワハラ上司」と言われがちな人のタイプや考え方のクセはありますか?

梅澤康二(以下、梅澤)「相手の人格に対する敬意や相手の価値観について理解がない人」「自分と相手が違う人間である自覚がない人」が、パワハラなどのトラブルを引き起こしやすいと感じています。

おっしゃる通り、本人はパワハラをしている自覚がないケースもある。そういった場合は、最終的には加害者の方が悪いのだろうという状況にありつつも、最初の“ボタンのかけ違い”が大きな問題になっているように感じます。

現代はみなさん、パワハラに関する感知能力が上がっています。そのため「パワハラを受けた」という側が、一度理不尽な思いをした結果、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」で相手の意図以上に悪意を感じ取ってしまうこともある。つまり、相手にリスペクトがない人が、そもそも最初にかけ違いを発生させてしまい、そういった状況に陥ってしまうのだと思います。

【あなたは大丈夫?】気づかないうちに「パワハラ上司」にならないために気をつけるべきこととは?梅澤康二(うめざわ・こうじ)
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士
東京大学を卒業後、大手弁護士事務所アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所。同事務所を退所後、弁護士法人プラム綜合法律事務所を設立。人事労務分野での経験は15年以上。パワハラについてのセミナー、紛争等の対応も行う

「パワハラ上司」と言われやすいのは「思いやりがない人」

――本人は正論を言っているつもり、というケースも多そうですね。

梅澤 もちろん、言っている内容は正しいこともあると思います。ただ、私が若い頃に弁護士事務所の上司から聞いたことで印象に残っているのは、「(パワハラになるかどうかは)思いやりの気持ちの有無が非常に大きい」ということです。

相手を思う気持ちがあれば、「こう言うと誤解や萎縮をするかもしれない」と、相手の気持ちを慮って先回りしていろいろ手当てをするはず。

部下を叱責するにしても、相手の気持ちも考えれば違う伝え方ができるかもしれません。絶対厳しく言わないといけない場合であれば、なぜ厳しく言う必要があるかを伝えることもできますから。

コミュニケーション上で「相手を思いやる姿勢が足りない人」が、ハラスメント問題に巻き込まれてしまうのかなと思います。

わび 梅澤さんがおっしゃるように、思いやりを持っていれば多少厳しいことを言っても相手も聞いてくれるのではないでしょうか。私自身も、パワハラを受けたときに上司から思いやりを感じられたら、受け止め方が違ったかもしれません。自分が管理職となった今、昔に自分がされたことは部下と接する上で非常に財産になっていると感じますね。