公選法や放送法の問題ではない、テレビが選挙報道を抑制する理由【池上彰・増田ユリヤ】報道陣の取材に応じる兵庫県の斎藤元彦知事。2024年11月25日撮影 Photo:JIJI

テレビはうそばっかり?
「メディアvsネット」の構図

増田 斎藤元彦・兵庫県知事が県議会から不信任決議が出されたことで失職し、出直し選挙に臨みました。結果、斎藤氏は知事選に再度勝利しましたが、選挙そのものが社会に波紋を投げ掛けています。

池上 マスメディアが批判的に報じていた斎藤氏が当選したことで、「マスメディアの敗北だ」とする論調が出てきました。

増田 街頭インタビューでも「テレビはうそばっかり。SNSで、自分で情報を取りにいって斎藤さんは悪くないと確信しました。初めて、本当のことを知りました」と答えている人もいましたね。

池上 斎藤陣営がSNSで支持を拡大した一方で、対立候補だった前尼崎市長の稲村和美候補のⅩアカウントは複数回、凍結に追い込まれました。さらに「外国人に参政権を与えようとしている」「尼崎市長時代に退職金を大幅に増額させた」など、偽情報を流布されたことと合わせ、兵庫県警に告発状を提出したと報じられています。

増田 インターネットでの選挙運動が解禁になったのが2013年。10年余り経過して、功罪両面が見えてきています。

 テレビは全ての放送について時間配分などが事前に細かく決められており、多くのスタッフが事実確認を行い、責任も負っています。もちろん、それでも間違いが起きることはあり、今回の兵庫県知事を巡る報道についても疑問がなかったわけではありません。

池上 確かに職員の告発文にあった、視察先で手土産をもらったことを指して「おねだり知事」とことさら問題視するのは行き過ぎではないかと感じていました。知事が感想などを発信してくれればPRになるという思いで、手土産を渡すことは自然なことでしょう。

増田 一方で、知事サイドが告発文に対して「犯人捜し」、つまり告発者を突き止めたことは、公益通報者保護法が禁じる行為に抵触する可能性もあります。

池上 告発者だった職員が百条委員会への出席前に亡くなったことで、斎藤氏に対する批判的な報道がさらに増しました。ところがこのメディアの報道姿勢が、一部の視聴者には「斎藤氏を一方的に批判している」「職員の事情を報じていない」と映った。

 そもそも百条委員会が始まった時点で、街頭では「斎藤さんは県民のために尽くしてくれていたから、こんなことになって残念」と答える人もいて、県民の間では斎藤知事への賛否が混在していました。にもかかわらずメディアは批判的に報じ、ネットでは斎藤氏を擁護する声が多かったことで「メディアvsネット」の構図で捉えられているようです。