「相続の話」を避ける家族
埼玉県に住む自営業の山本俊介さん(56歳・仮名)は、今まさに認知症問題に直面している。
86歳の父親は都内で一人暮らし。母親は存命だが父親との仲が悪く、兄弟の面倒を見るという名目で郷里にほぼ行ったきりだ。
今年10月、通院先の病院の看護師に「お父さんは薬をきちんと飲めていないようですが、認知症は大丈夫でしょうか?」と言われた。父親とは普通に会話できているつもりだったが、指摘されてみると言動に怪しさも見える。一人暮らしの高齢者を狙った詐欺被害を心配していたが、加えて認知症問題ものしかかって来たのだ。
別居中の母親は、父親が亡くなった後は自宅を売って郷里へ帰ることを希望している。しかし、父親がこのまま認知症になれば、その希望も棚上げになる。
周囲には、父親の財産の管理について話し合うべきだと言われているが、当の父親は認知能力低下を自覚しておらず、話し合いはできそうにない……。
高齢化の進行と共に認知症患者は増え続け、2025年には実に約1170万人(※)に上るとの推計もある。
認知症患者と財産の問題に対して現行制度は不十分という問題もある。高齢者本人と家族は、認知症になれば何もできなくなることをまずは自覚すべきだろう。
※ニッセイ基礎研究所レポート「令和5年全国将来推計人口値を用いた全国認知症推計(全国版)」(2023年7月)
大分市出身。大学在学中に1992年「サンパウロ新聞」(サンパウロ)、卒業後1997年から2004年「財界展望」編集記者、2008年から2018年まで「週刊文春」記者、現在はフリーランスのライターとしてマネー、経済分野を中心に幅広く執筆を行う。著書に『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文春新書)、取材・構成『日本人の給料』(宝島社新書)などがある。