大自然から教わった撮影の技術

就活を放り出してトラの撮影にインドへ、若き岩合光昭さんが選んだ「自分らしい生き方」いわごう・みつあき/1950 年東京生まれ。動物写真家。野生動物の息吹を感じるその写真は「ナショナルジオグラフィック」誌の表紙を 2 度も飾るなど、世界的に評価されている。ライフワークともいえるネコの撮影にも力を入れ、『岩合光昭の世界ネコ歩き』(NHK)が好評放送中。近著にKawaii(クレヴィス)、世界で一番美しいネコがいる風景(誠文堂新光社)、ニッポン看板猫(辰巳出版)。映画「ねことじいちゃん(2019)」「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族(2021)」で監督を努める。岩合光昭オフィシャルサイト https://iwago.jp/ (c)Machi Iwago

――写真家を目指そうと決めた岩合さんに対して、お父さんはほとんど技術的なことは何も教えてくれなかったそうですね。

 そうですね。当時はデジタルではなくフィルムですから、自分なりに動物を撮った写真のポジフィルムを父に見せに行ったら、何も言わずにハサミを持ち出してジョキジョキやりだすので、「えええ!」となりました(笑)。すると父は一言、「いや、これじゃ通用しないよ」と。なかには1枚くらい使えるやつもあったはずなのに、厳しいですよね。

――もし残っていたら、今では貴重なお宝作品だったかもしれません。

 でも厳しいばかりじゃなくて、そこはやはり七光りがあるというか、写真雑誌の編集長を紹介してくれたりもするんです。ただ、同じようにポジフィルムを持って編集部にお邪魔すると、編集長が首から下げたルーペでまじまじと作品を見たうえで「眼は大丈夫なのか。眼科行ったほうがいいかもしれないぞ」と言われてしまって……。

 要は、ピントがちゃんと合ってないんですね。あらためて、動物写真というのは難しいものなのだなと、実感させられました。

――岩合さんにとっては、若かりし頃の下積み体験とも言えそうですが、そうした体験から生まれた反骨心が原動力になった側面も?

 それが、自分で言うのもおかしいですけど、僕はけっこう素直な性格なので、抵抗はあまりなかったんですよね。その時点の僕のレベルからすれば「まあ、そう言われても仕方がないよな」というくらいで。