大自然から教わった撮影の技術
――写真家を目指そうと決めた岩合さんに対して、お父さんはほとんど技術的なことは何も教えてくれなかったそうですね。
そうですね。当時はデジタルではなくフィルムですから、自分なりに動物を撮った写真のポジフィルムを父に見せに行ったら、何も言わずにハサミを持ち出してジョキジョキやりだすので、「えええ!」となりました(笑)。すると父は一言、「いや、これじゃ通用しないよ」と。なかには1枚くらい使えるやつもあったはずなのに、厳しいですよね。
――もし残っていたら、今では貴重なお宝作品だったかもしれません。
でも厳しいばかりじゃなくて、そこはやはり七光りがあるというか、写真雑誌の編集長を紹介してくれたりもするんです。ただ、同じようにポジフィルムを持って編集部にお邪魔すると、編集長が首から下げたルーペでまじまじと作品を見たうえで「眼は大丈夫なのか。眼科行ったほうがいいかもしれないぞ」と言われてしまって……。
要は、ピントがちゃんと合ってないんですね。あらためて、動物写真というのは難しいものなのだなと、実感させられました。
――岩合さんにとっては、若かりし頃の下積み体験とも言えそうですが、そうした体験から生まれた反骨心が原動力になった側面も?
それが、自分で言うのもおかしいですけど、僕はけっこう素直な性格なので、抵抗はあまりなかったんですよね。その時点の僕のレベルからすれば「まあ、そう言われても仕方がないよな」というくらいで。