採用面接そっちのけでインドへ

――写真家デビューの瞬間は、覚えていますか?

 自分が撮った写真で対価を得たのは、読売新聞でヨーロッパの動物園の風景を載せる連載が最初だと思います。大学時代でした。

――なんと、いきなり全国紙での連載デビュー。

 父の仕事の関係でたまたま読売新聞の方が来ていて、ちょうどヨーロッパの動物園をまわろうとしていると言ったら「じゃあうちでやってみる?」と言ってもらえて。わりとあっさりしたデビューでした。

――職業として写真家を目指すことについて、お父さんは何と?

 ごく自然に父親の事務所に入ってしまったので、正直あまり反応らしい反応があった記憶はないんです。というのも、最初は普通に就活をしようと、出版社などを中心にいくつか入社試験を受けていたのですが、選考の途中で父が「インドにトラを撮影しに行くよ」というので、面接そっちのけでインドに行きました(笑)。

 もっとも、この時は2週間の滞在で、トラの姿を見られたのはほんの15秒くらいのものでしたけど。ちょうど、密猟の影響でトラの個体数が激減していた時期でした。

――しかし、それも得難い経験で、写真家としての糧になっているのでは?

 そういえば、父がよく言っていました。「(写真について)僕は何も教えてないけど、自然が君にいろんなことを教えたよね」と。なんだかカッコいいことを言うなと思いましたけど、結果的にそのまま大学卒業後も撮影について行くことになりました。

 ただ、父親の仕事を手伝うばかりでは、一端の写真家とは言えません。どうにか状況を打開しなければと考えて、真剣に撮り始めたものの一つに、ネコがありました。

就活を放り出してトラの撮影にインドへ、若き岩合光昭さんが選んだ「自分らしい生き方」タンザニアで撮影したライオン。世界的な動物写真家としてさまざまな野生動物を撮影してきた(c)Mitsuaki Iwago