地域で繋がる、大切なご縁と記憶
2024年秋、日常的に通う近所の花月園公園でたまたま出会ったひとりの老人男性と、話す機会があった。鹿児島のご出身との事だったので、私は「薩摩の方はあの『生麦事件』についてどのようにお考えなのですか?」と尋ねた。すると、事もあろうに島津久光一行によるその大名行列に薩摩藩士として先祖が参加していたという話のほか、西郷家の知られざるエピソードを教えていただき驚いた。
その鶴見花月園公園から徒歩5分ほどに、全国的に有名な曹洞宗の大本山「總持寺(そうじじ)」がある。家の近所なので、子供の頃から散歩がてら祖父母と共にお参りし、親しむお寺で、中学、高校時には学校の課外授業で坐禅をした経験もある。
2024年の秋のある日、總持寺で行われたイベントに足を運ぶと、鶴見歴史の会の会長をはじめ、会の方々にお会いする事ができた。貴重な写真や資料がパネル展示されているなか、本書で執筆を担当したコラム「横浜大空襲と戦後復興」についてのパネルがあったので見ていると、横で同じパネルを見ていた95歳の女性からおもむろに話しかけられた。
女性は横浜大空襲当日の生々しい記憶を思い出すように聞かせて下さった。2年近く前に99歳で亡くなった祖母からも、私は横浜大空襲の話を幼少時から長年聞かされていたが、改めて新たな実体験の記憶を拝聴する事となった。
「生麦事件参考館」再開への道
2023年に館主が他界したことにより閉館している「生麦事件参考館」(1994年開館)の再開に向け協議が進められている。生麦事件は大名行列に乱入してしまった英国人の若者が薩摩藩士によって殺傷され、イギリスによる報復で薩英戦争となった。それが転じてイギリス介入が明治維新の引き金になった事は現在の日本の運命にも大きく繋がっていると知られている。
貴重な資料文献、錦絵、写真が所蔵されている事で価値深い生麦事件参考館の再開と運用について参加のお誘いをいただいている。今後も日本の歴史に関わったドラマを、鶴見区生麦を訪れ、現場臨場感をもって感じ、興味をもつ人が増えることが期待されている。また事件を通じて見えてくる、多様性・国際性・他者理解への歴史的モデルとして、世代を越えた交流、集いの場として有意義に機能する事を願ってやまない。今年はコロナ禍後5年ぶりに生麦事件顕彰会主催で生麦事件発生162年の追悼祭が行われた。
生麦事件参考館の館主で、同研究者として有名だった故・浅海武夫さんの晩年にお話をさせていただき、資料をいただいた事も忘れ難い。歴史的事件の影で、その後人道的な働きをした日本人2名と生麦、鶴見の人々の心意気にも注目したい。それは世紀の国際事件の目撃者で、自費で慰霊碑を建てた黒川荘三氏。そして生麦事件で殺傷された英国人リチャードソンと、事件後に亡くなったマーシャルとクラークの墓を整備し合祀までした浅海武夫さんの配慮だ。
『地球の歩き方 横浜市』を片手に、ぜひ生麦〜花月園〜見所満載の鶴見区を訪れて欲しい。
音楽家、DJ、選曲家、MC。音楽・歴史文化ライター。Newsweek誌『世界が尊敬する日本人100』、UNIQLO世界同時広告「FROM TOKYO TO THE WORLD」に世界で活躍する打楽器奏者として選出。ぐるなび「みんなのごはん」でも大型鶴見特集を寄稿。リオのカーニバル、パリコレ、W杯、オリンピック他国際舞台で多数実績。リオ五輪では日本政府によるJAPAN HOUSEの音楽イベントをプロデュース、出演。各国政府・国際企業のブラジル事業で実績多数。命名した共著書『リオデジャネイロという生き方』(双葉社)、カメラマンとして表紙他も担当した『ブラジルの歴史を知るための50章』(明石書店)他、多数書籍・活字メディアに執筆寄稿。MTV、J-WAVE、TOKYO FM、NHK他レギュラー番組実績も多数。自主企画案内の「生麦・鶴見ツアー」は4年で230回を超えた。生麦地区センターでは本場ブラジルの名門サンバチームの公式指導者証をもとに、打楽器レッスンを行っている。メンバー募集中。
●筆者が執筆した ぐるなび「みんなのごはん」
※本記事は、2024年12月10日現在のものです。