「事業承継」は、企業が事業存続を図り、そして日本の産業の活力を維持・拡大するうえで非常に重要といえる。また、企業を取り巻く経営環境が刻々と変化する中、企業は変化に柔軟に適応し、進化していく必要がある。
そのような中、企業の「サクセッションプラン」(後継者育成計画)への関心が非常に高まっている。企業は後継者を育てるだけではなく、後継者を支え積極的に革新を推進する次世代の組織も、同時並行的に構築していかなければならない。そのことを踏まえると、事業継承は組織にイノベーションを起こす絶好のタイミングでもあるのだ。とはいえ、いったいどこから手をつけるべきか、いつから取り組むべきか、どのように進めていくべきか、試行錯誤している企業がほとんどであることも事実だ。そしてそこには、世代間のギャップや、伝統と革新のギャップもある。
今回、静岡県立大学経営情報学部教授であり、事業承継学会常務理事の落合康裕氏に、企業が抱える事業承継や後継者育成に関する課題や現状、取り組み方について、3回にわたり解説していただいた。その最終回をお届けする。(編集/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、撮影/佐藤直也)
※本記事は、2024年9月11日に開催された、「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のイベント、「組織を活性化させるサクセッションプラン」における講演をもとに記事化したものです
サクセッションプランにおいて人事部門が
重要視すべき3つのキーワード
前回、老舗企業が後継の経営者に「タフ・アサインメント」(※)を経験させる理由について解説しました。こうしたサクセッションプランを実践していく中で重要な部門であり、主導的立場が期待される人事部や人材開発部といった人事部門(以下、人事)の役割について考えていきたいと思います。
※飛躍的な成長を促すため、実力以上の困難な課題を割り当てること
私はよく企業の人事の方からご相談を受けますが、その際、サクセッションプランにおいて人事が重要視すべき3つの要素(※)をご説明しています。
※ロミンガーの法則(リーダーシップ開発の要素は、「仕事」7割、「薫陶」2割、「研修」1割)
1つめの要素は「仕事」、つまり「人と仕事との対応関係」です。2つめの要素は「薫陶(くんとう)」(※)、これは「人と人との対応関係」というふうに言い換えることができると思います。
※優れた徳や人格で、他人を感化したり、教え育て上げたりすること
「人と仕事との対応関係」と「人と人との対応関係」。これらに対して人事の役割といえば、人事異動、つまり「配置のマネジメント」です。