人事部門には研修デザインのスキルが必要
取り入れるべきは「越境経験」
1つめの要素は「仕事」、2つめの要素は「薫陶」。そして3つめの要素は「研修」です。前回お伝えした、経営者としての覚悟や態度をどのような研修で身に付けさせるのか。
研修というのはさまざまな定義があると思います。社内で行われる教育や学習、社外の人を交えたトレーニング、社外に出て職場や通常の業務から離れて行われるOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)のほか、MBA(経営学修士)を取得したり、アワードに出場させたりといったことも含まれるかもしれません。
最近、ビジネスパーソンのリスキリングがよく話題になりますね。将来の経営人材の育成においてもリスキリングが必要になってくると思います。人事の方々にはこうした「研修のデザインスキル」が求められます。
前々回、「承継は革新のチャンス」というお話をしましたが、革新の種というのは、なかなか社内の経験だけでは見つけるのが難しい。ですから、一歩、社外に出て学ぶなど「越境経験」をしてみる。
例えばビジネススクールはひとつの例かもしれません。利点は、実際のビジネスのケースを活用し、闊達(かったつ)にディスカッションができることです。教科書を輪読する座学形式のものではなく、「その事例において、自分が経営者だったらどのような思考をして、どのような経営判断をするか」の観点から、ケースに基づいて多様な価値観を持つ社外の人々と討議を行う。これを私は「次期経営者としての追体験」と呼んでいます。それを社外の人たちと行うわけです。
実際の仕事での失敗はなかなか許されませんが、ケースではいくら失敗してもかまいません。自社の常識が他社では非常識であるといったことも学べるかもしれませんし、外部との関わりの中で「自社を客観的に見る」という視点が身に付くわけです。経営者にとって「自社を客観的に見る」ことは重要です。
経営者はよく「孤独だ」といいます。会社のピラミッド構造の上に行けば行くほど、社内の人に相談しづらくなり、だんだん、相談相手が少なくなっていくのです。でも、相談相手というのはとても大切です。そのときに、やはり、外部の人との接点、壁打ち相手やメンターといった存在は大きく、そういった人たちとの関係づくりをしていく上で、越境経験は役に立ちます。
イノベーションとは「新結合」です。何より、越境経験から緩やかな外部とのつながりができることで、そこからこうしたイノベーションの種が生まれるきっかけになるはずです。