濵渦 矢澤さんはもう亡くなられましたが、任侠団体の親分みたいな風格がある人で、大人物でした。

 あの当時は、どこの自治体も財政再建に苦しんでいて、東京だけじゃなかった。

 もし財政破綻になれば、職員も解雇される可能性があるから、「組合員の雇用を守る立場の委員長としての役割があるんじゃないですか」とこちらが言ったら、矢澤さんは、「うまいことを言うなあ」って、うなっていましたね。

 結果的に、あの交渉がうまくいったことが一里塚になって、日本中の自治体に財政再建の機運が起こるようになりました。

 東京都の財政が好転していくきっかけは、あのときですから、結果的に石原都政にとっても最大のキーポイントでしたね。

カラオケで軍歌まで歌い
債務の利息カットを交渉

江本 濵渦さんは東京都の債務を圧縮するために金融機関相手の交渉も担当されたんですよね。

濵渦 青島幸男さんの前任の鈴木俊一都政の時代、都市博(世界都市博覧会、青島の判断で中止)の準備などで、東京都は莫大な借金を抱えていました。

 臨海部に大きなハコモノをつくって総額で5兆円くらいの借金があったから、利息を支払うだけでも大変です。

 石原さんと相談して、「借金を縮小しよう」という話になって、私が交渉に動きました。

 当時の日本政策投資銀行の総裁が大蔵省(現・財務省)出身で、事務次官などを経験されていた小粥正巳さん。

 その小粥さんのところに通いつめて、東京都が借りている資金について利息カットや債務の圧縮のための借り換えを頼みましたね。カラオケに一緒に行って小粥さんの大好きな軍歌を一緒に歌ったこともありましたよ(笑)。

江本 涙ぐましい努力をしたわけですね。

濵渦 ええ。それで利息をカットしてもらい、その分を元金の返済にあてられるようにしてもらったんです。

 その成功を梃子に、ほかの金融機関との話もまとめました。横並びですから、メインバンクの政策投資銀行との話がうまくいけば、ほかの銀行もその条件に合わせてくれるようになっていきましたね。

江本 現在は小池都知事が何かあるたびに大盤振る舞いをしている印象ですが、それでも財政が好調なのは、もともとは石原都政でのさまざまな改革があったからできることなんですね。

濵渦 東京都は都税だけで6兆円くらい入ってきますからね。しかし、小池都政の大盤る舞いを見ていると、今後はどうなるか怪しいですね。