自動運転のクルマでも
愛着を持ってもらうには
面白いのは、その「主体感」が、クルマの自動運転でも求められることだ。しかし、ユーザーが何もしなくても目的地まで連れていってくれるのが自動運転だから、いわば「全面的アシスト」である。全然さりげなくない。だったら、バスやタクシーのように主体感ゼロの「おまかせ」でいいような気がしてしまうのだが、そういうものではないらしい。
「自動運転の実用化に向け、国も自動車メーカーも積極的に取り組んでいますので、産総研でも自動車メーカーとのあいだで自動運転の共同研究が増えています。そこでは研究の大きな方向性が2つある。1つは、自動運転を乗り心地のよいものにすること。もう1つは、自動運転でも主体感のあるクルマをつくることです。
バスやタクシーと違ってユーザーが購入する製品なので、メーカーとしては愛着を持ってもらいたい。そのためには主体感がほしい。自分で操作はしなくても、なんらかの形で自ら運転しているような感覚です。そこで大事になってくるのが、ユーザーに合わせてクルマをパーソナライズする技術です」
ドライバーには、ブレーキのタイミングや車間距離のとりかた、カーブを曲がるときの角度など、それぞれ自分にとって快適な走りかたがある。助手席に座ると他人の運転が危なっかしく感じたりするのも、そのためだ。
バスやタクシーではそれも大して気にならないが、自動運転の運転席に座れば、たしかに「うわわ、そんなに車間をつめるなよ」「ブレーキ遅すぎるぞ」などと文句をつけたくなりそうである。
「感情センサーを用いて、運転中のユーザーの不安や恐怖感などを測定し、それを自動運転の設定にフィードバックすれば、そのユーザーにとって快適な車間距離やカーブの曲がりかたなどを自動車が学習するでしょう。パソコンがユーザーの多用する漢字変換を覚えていくのと同じように、乗れば乗るほど自分好みのクルマになっていくわけです。かつての『たまごっち』がそうだったように、自分にフィットするようにクルマを育てていくことも、愛着を持つ要因になるのではないでしょうか」