ユニークな
クリエイティブ集団のつくり方

「やさしく、つよく」を大前提に、「おもしろく」を実現する。個々の創造性を引き出し、多様なアイデアを生み出し続けるために、どのような工夫をしていますか。

 実は、それが最も腐心し、試行錯誤していることですね。その結果、この方向性でこんなことがしたいといったテーマを実現するためのクリエイティビティはかなり育ってきました。

 ちなみに一般的な会社は、クリエイティブはサブ的な位置付けで、稼ぐ主力というわけではありません。けれども、ほぼ日はコンテンツの会社ですから、クリエイティブで稼ぐことが極めて大事です。つまりは、「アイデア資本主義」の会社だといえます。だからこそ、普通のレベルでは物足りない。「もっとジャンプしよう、浮いてみよう、飛び降りてみよう」と僕自身が先導して、振り切ったクリエイティブづくりをたくさんやってきました。のちに社員が「社長がやってきたああいうこと以上のものを、僕らもやりたい」と思ってほしいというのもあります。

 ただし、こうしたクリエイティブな組織の土台づくりはけっして急いではいけません。とにかく「成功体験」を積み重ねる必要がある。言い換えれば、成功体験ができる「場」をつくれるかどうか。あれができたら、これもできるという成功体験の場をどれだけ増やせるかに腐心してきました。

 ちなみに漫画や小説では、ある種の仙人のようなずば抜けたプロフェッショナルになるには秘伝のノウハウや奥義みたいなものがあることになっていますが、現実は、長い時間をかけて真剣に鍛錬したところで誰もがそれを習得できるわけではありません。誰もができるという根性論や押し付けは、個人に負荷がかかりすぎてしまう。極端な言い方をすれば、できる人は最初からできる。生まれ育ちの影響が大きいからです。

 特にクリエイティビティは、何を学んできたか、親や友人とどういう遊び方をしてきたかで決まってしまうことが多い。だから、会社そのものをクリエイティビティあふれる人が「集いたくなる場」にしたい。そういう人が集った時に「もっと力が発揮できる場」にしたい。クリエイティビティがクリエイティビティを呼び込むからです。

 近年、ブルシットジョブという言葉が聞かれるようになりましたが、やはり仕事はおもしろいほうがいいに決まっている。クリエイティブでない仕事はもったいない。子どもがほめられると喜ぶように、大人も「俺っていい仕事したな」と後でニヤニヤしたいなら、やはりアイデアにこだわることが大切です。手を替え品を替えながら、みんなでアイデアを模索してチャレンジする。そんなムードのある会社にしたいと考えています。

 また、そうした切磋琢磨ができる組織は強いのも事実です。たとえば高校野球で毎年全国大会に出てくる強豪校と、一人の天才が引っ張って勝ち抜いた学校では、強さのレベルが違います。補欠までこんなことをしているのかと驚かされるような底力がある。これは会社においても同じです。

 だからこそ、ちょっとよいものを見つけた時に、自分ならもっとよいものにできると手ぐすねを引けるか。おもしろがる側、楽しむ側ではなく、おもしろがらせる側、楽しませる側で発想できるか。そうでない限り、文句ばかり言うやつで終わってしまいます。

 先ほど、ほぼ日の事業のベースには「人に喜んでもらえるか」があると申し上げましたが、そのためには人をおもしろがらせる側、楽しませる側に立てるかどうかが問われます。それがクリエイティビティの基本なのです。

 一時期、日本ではデザインシンキングなどの創造性開発トレーニング研修が人気を博しましたが、それについてはいかがお考えでしょう。

 研修も悪くはないですが、大事なのは、おもしろがらせる側として発想する癖をつけることです。ですから、実務を通じて、自分ならこうしたい、ああしたいと感じる「場」を増やすことが重要です。みずから分け入る「森」を増やすことで、クリエイティブのもとになる感受性が生まれます。

 余談ですが、解剖学者の養老孟司さんがこんなことを言っていました。「みずから動いて仕入れたもの以外は使いものにならない」と。たしかに、みずから動くと視点が変わる。視点が変われば景色も変わる。変わった景色に脳がどう反応するか。これが考えるということです。みずから森に分け入っていくことで、アイデアが鍛えられていきます。

 実務に限らず、日々街を歩く時でも常になぜどうしてと考えることが、クリエイティビティの自主トレ、筋トレになりますね。

 たしかに「雨垂れ石を穿(うが)つ」ようにクリエイティビティは積み上がっていきます。だからこそ常に社員たちに対し、おもしろがらせる側に立ち続けることの大切さを伝えてきました。

 また、「おもしろく」は、「多様性」と読み替えることもできます。「やさしく」「つよく」だけでは安定や退屈、同質性に向かってしまう。それゆえ「おもしろく」で変異を生じさせる。それは新陳代謝を促すことでもあります。そこに、アイデア資本主義を標榜する僕らの商売の種があるのです。

「やさしく、つよく、おもしろく。」を実践する中で一人ひとりの成功体験が積み重なり、それらが共鳴する場をつくり続けること。それが社長である僕の仕事にほかなりません。