「三省堂 辞書を編む人が選ぶ 今年の新語2024」で「言語化」が大賞に選ばれるなど、「言語化」という言葉を耳にすることが増えた。「とっさの質問にうまく答えられない」「『で、結局、何が言いたいの?』と言われる」「話し方やプレゼンの本を読んでも上達しない」……。そんな悩みを持つ方は、言語化の3要素である「語彙力」「具体化力」「伝達力」どれかが欠けていると指摘するのは、文章や話し方の専門家であり言語化のプロである山口拓朗氏。本連載では、山口氏による話題の書籍「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」の中から、知っているだけで「言語化」が見違えるほど上達するコツをご紹介していきます。
ギスギスした職場は「言語化」不足?
人間関係がうまくいかない原因のひとつに、コミュニケーション不足があります。「挨拶したのに返事がない」。そんなことがあると、「あの人は私のことが嫌いなのかもしれない」と考えるかもしれません。そして、次第に相手を避けるようになる。
すると、相手もあなたに嫌われていると感じて、負のスパイラルに陥りどんどん関係が悪化していく……。本当は、挨拶が聞こえなかっただけかもしれないのに、お互いが頭の中で勝手に妄想をふくらませ、関係を複雑にしてしまっているのです。
この手の悲劇を防ぐ方法は、やはり「言語化」です。
人の頭の中は誰にも見えません。だから言葉や文字で伝えるほかないのです。
逆に言うと、それさえできるようになれば、人間関係はみるみる改善されていきます。少なくとも、すれ違いや誤解に振り回されることはなくなるでしょう。
言葉が「抽象的」だとトラブルが起きやすい
たとえば「あの資料、コピーを取っておいて」と言われたとします。「あの資料ってどれかな?」。あなたは「?」と思いましたが、明日は定例会議の日。「多分、これのことだろう」と思って会議資料のコピーを取り、相手に渡しました。すると相手は言います。「違うよ、これじゃなくて、明後日A社に持参する資料だよ」。
このとき、お互いの気持ちは、きっとこうでしょう。
「まったく、勘の悪いやつだな」
「なんだよ、はっきり指示しろよ」
この手の例は挙げればキリがありません。
「あの件、どうなってる?」←(えっ、どの件ですか?)
「早めに仕上げてって言ったよね。待ってるんだけど」(←えっ、早めにって今日中だったんですか?)
「質問」で食い違いを防ぐ
果たして誰が悪いのか?
もちろん、曖昧な指示をした相手の責任は大きい(言語化力が低い状態です)。かといって相手を変えることはそう簡単ではありません。あなた自身の力でこの「食い違い」を防いでいかなければいけないのです。
食い違いを防ぐために意識すべきは、頭に「?」が浮かんだ瞬間に質問をすることです。
「あの資料というのは、どの資料ですか?」「いつまでに何部コピーを取ればいいですか?」。
あなたがそう質問すれば、相手は具体的に答えてくれるでしょう。
質問力もまた言語化力の一部です。
質問するのは恥ずかしいことではない
質問することを、「恥ずかしい」「カッコ悪い」と感じる人もいますが、そんなことはありません。「質問できる」ということは、あなたにわからないことを見極める力があるということ。曖昧さを排除して、ミスやトラブルが生じる芽をつむことができるわけです。そんな自分に胸を張りましょう。
人に何か言われた時に、頭に「?」が浮かぶということは、あなたの「具体化」がすでに板についている証拠でもあります。相手が発する言葉に対して、足りない情報やおかしな情報を見極めることができる。これは、言語化力が低い人にはできないことです。
「相手の言葉を読解する→疑問点を質問する」というプロセスで、ほとんどの誤解や食い違いを防ぐことができます。
言語化が苦手なのは、あなただけではありません。あなたの周りにいるあの人やこの人も実は苦手にしています。
本書で言語化について学んだあなたには、ぜひとも、周りの人の言語化もサポートしてあげてほしいと、私は思います。
自分だけでなく、周りの人の言語化力が高まったとき、そのチームの生産性は最大化します。
お互いの理解が深まり、誤解やわだかまりのない関係性が醸成されていきます。サポート活動の先には、そんな“楽園”が待っているのです。
*本記事は、山口拓朗著「『うまく言葉にできない』がなくなる言語化大全」から、抜粋・編集してまとめたものです。