既存メディアでは、発信者が限られており、一定の規律や倫理規定があるため、フェイクニュースの拡散は一定の歯止めが効きます。しかし、SNSは民主化されたプラットフォームであるがゆえに、誰もが自由に自分の意見を発信でき、信じることを声高に叫ぶことが可能です。その結果、個人の主張がエコーチェンバーによって増幅され、フェイクニュースとの相性が極めて良い状況を生み出しています。
生成AIの進化は、この状況をさらに深刻化させています。
フェイクとAIとの関係を説明するために、最近ファンの間で議論となっている「AIシティポップ」の話題を取り上げてみましょう。AIが生成したシティポップ“っぽい”楽曲はクオリティが高く、称賛する人もいるのですが、微妙な違和感を嫌う人もいます。
私は、AIが生成するシティポップの問題点の1つは、AIがインターネット上で「シティポップ」とタグ付けされたさまざまな楽曲を機械的に学習し、大量にそれっぽい楽曲を再生産することにあると思っています。オリジナルのシティポップと比べてメロディーやアレンジに違和感のある作品が爆発的に増えると、本来のシティポップの魅力が埋もれ、失われていく懸念があるからです。
AIは、高い信頼性を持つように見える文章や画像を容易に生成するため、フェイクニュースの拡散を加速させます。例えば、ディープフェイク技術を用いた偽の動画や、AIによる大量の投稿がSNS上で世論を操作することが可能になっています。これにより、科学的に不確かな主張や明らかに矛盾する政策でも、支持者を集めてしまう状況が生まれています。
この問題の根底には、SNSが情報共有の場としての機能を果たしつつも、情報の質を守る仕組みを持たないことがあります。フェイクニュースが広まりやすいSNSの環境は、AIの進化によって、さらに悪化する可能性があります。
SNSが牧歌的だった時代は終焉
負の影響への備えが必要
SNSが抱える構造的な課題やフェイクニュースの影響が顕著になる中、相互運用性を目指す「Bluesky」の登場が注目されています。Twitterの共同創業者、ジャック・ドーシー氏が一時支援していたこのプラットフォームは、ユーザーが特定のSNSに縛られることなく、異なるサービス間で情報をシームレスに共有できる仕組みを目指しています。