2024年も、SNS上ではさまざまな「炎上」が観測された。今年起こったいくつかの事象を分析してみると、ビジネスパーソンにも共通する課題が見えてくる。ネットメディア編集者の立場から、今年を象徴するいくつかの事例について、その傾向と背景を考えてみたい。(ネットメディア研究家 城戸 譲)

キリン「氷結無糖」CMの成田悠輔氏降板
「キャンセルカルチャー」を想定した選択を

 まず初めは、3月に起きた、キリンの缶チューハイ「氷結無糖」のプロモーションをめぐる炎上だ。経済学者の成田悠輔氏を起用したところ、そのキャスティングに批判が殺到し、結果として広告出稿を取り下げたのだ。

フワちゃん・ミセス・成田悠輔…「ボヤが山火事になる」ネット炎上の共通点とは?【2024振り返り】フワちゃんは8月、Xの投稿が“炎上”し、活動休止となった Photo:SANKEI

 成田氏の起用に批判が集まった背景には、21年12月にネット配信番組で、「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」と発言したことがある。この発言は当初はあまり問題視されていなかったが、約1年後の23年1月から2月にかけて再燃し、ニューヨーク・タイムズなどの海外メディアが報じるなど大きく火が付いた。

 過去の言動を許せないと、不買運動などの抗議運動につながる、いわゆる「キャンセルカルチャー」は、いまや珍しくない。SNSでの拡散によって、当初はボヤのような炎上に見えても、一気に山火事にまで発展してしまう。

 こうしたリスクを避けるため、昨今のマーケティング戦略では、起用するイメージキャラクターの身体検査が欠かせない。集団自決発言であれば、「成田悠輔 炎上」でネット検索すれば、一発で出てくる。広告関係者が誰も知らなかった可能性は少ない。

 ひとつ考えられるのは、炎上リスクを織り込んだ「あえての起用」だ。賛否両論あれど、発言力のある人物を前面に出すことで、わが道を行く商品ブランディングを進めようとした可能性はある。しかしながら、もしその戦略をとるならば、批判を受けて広告を取り下げてしまったのは悪手だ。

 だとすれば、「さほど問題にならない」と判断した関係者の認識の甘さが、事態を深刻にさせたと考えるのが無難だろう。