たとえば、癌患者の治療について考えてみましょう。医師は専門的な診断を行い、「問題は○○部分に発生した癌である」と特定します。その上で、病状や進行具合に応じて効果が確立されている外科手術や抗がん剤治療を施していきます。これが「技術的問題」としての解決法です。

「技術的問題」は専門家が解決
「適応課題」を担うのは当事者

 一方で、手術の結果、仮に癌自体を取り除くことができても、その後の再発防止まで含めて「治療」(=解決策)だとすれば、患者本人の食生活はじめ日々の習慣を大きく変えていく必要が出てくるでしょう。

 このとき、生活習慣をレビューした結果「飲酒や喫煙習慣が問題だ」と特定できたとしても、たとえば「ノンアルコール飲料を常備する」とか「禁煙外来にいく」という技術的な解決策だけでは不十分であることは容易に想像がつきます。健康に対する本人の考え方や、人生における優先順位自体を根本から見直していく必要があるのです。これが「適応課題」の最大の特徴です。

 技術的問題と適応課題では、「誰がその解決を担うのか」という点においても大きく異なるとハイフェッツ教授は言います。

 技術的問題の解決を担うのは、その解決法に熟達した専門家であり、先述の例では医師がこれに当たります。つまり、詳しい者に任せておけば良いのです。

 一方で、適応課題においてその解決を担うのはまず当事者でなくてはなりません。またその周辺関係者もそのプロセスに直接的・間接的に深く関与します。生活習慣に関する根本的な価値観を是正していくには、当然本人の関与が最も重要となりますが、その生活を支える家族や友人、職場の関係者も当人の新たなライフスタイルに合わせて日々の過ごし方を変容させる必要が生じます。ここも技術的課題と適応課題の大きな違いと言えるでしょう。

問題解決を複雑にするのも
最終的な当事者も「人」

 今日のビジネス環境において起こる課題の多くは、技術的問題か適応課題のどちらかに明白に分類されるわけではなく、どちらも混合されているケースです。