たとえば、最近「組織のアジャイル化」という考え方が多くの企業によって導入されています。
ここでいうアジャイルとは、「素早く考え、素早く決めて行動し、間違っていれば素早く修正してまた実行する」という一連の組織プロセスを表す言葉です。元はソフトウェア開発の用語でしたが、まさにVUCA時代にふさわしい組織の行動様式であるとして、近年ではこれを企業や事業運営そのものに当てはめようとする動きが広まっています。
「素早く意思決定して素早く行動に移すためには何をすれば良いか?」こうした問いに対する技術的解決として、たとえばslack等のコミュニケーションツールや生成AI等の業務効率化ツールの導入が考えられるでしょう。
「スクワッド」と呼ばれるプロダクトごとの小規模チーム内に、開発・営業・販売・法務など、あらゆる機能別担当を配置するという組織構造的な処方箋も人気です。
しかしいずれも、それだけでは不十分でしょう。チームが素早く行動するためには、役割や責任に対する組織全体の考え方そのものを変えていく必要があります。
「失敗しても懲罰的な扱いを受けることはない」「立場に関係なく声を上げるべき」といったマインドセット自体の醸成も重要になってきます。そのなかでは、メンバー同士の接し方やお互いに対する関心の払い方など、関係性の変容も求められるでしょう。ここには適応的な解決策が必要になってくるのです。
最も注意すべきポイントの1つは、「適応課題」を「技術的問題」のように扱ってはいけないということです。「副業を許可すれば組織へのロイヤリティ(忠誠心)が高まるはず」「フレックス制度を導入すれば女性も活躍できるはず」など、技術的な直線型のアプローチによって、あたかも複雑な課題が解決されていくかのような考えが見え隠れするときは、要注意です。
なぜなら、どんなに優れた技術や他組織で成功している制度も、最終的に運用するのは当事者として問題を抱えている「人」であり、この「人」こそが、問題解決のプロセスを複雑化する最大の要因だからです。