自然とシンクロしやすいニューロマイノリティの世界観が具現化されたかのような風景描写です。水が引きはじめ、災害が収まる場面は、勢揃いしたキャラクターたちが楽しそうにしています。と同時に自然界の様相が記されて、本作の多幸感は頂点に達します。
ホムサ=ホモセクシャル
同性愛のほのめかし!?
やっと、水が引きはじめました。洗い流されたばかりの海岸が、ゆっくりと日光の中にふたたびすがたをあらわしました。最初に顔をつき出したのは、木々たちでした。寝ぼけたようなこずえを水面の上にふるわせ、それから、あんなひどいできごとのあとでも、なにも失わなかったことをたしかめるように、枝をさしのばしました。いためつけられた木立は、いそいで新芽を出しています。小鳥たちは元のねぐらを見つけ、水の引いた丘の上では草の上に寝具が干されていました。(『夏まつり』p.206)
トーベの描きだす自然の姿は、ほんとうに美しいですね。
『ムーミン谷の夏まつり』で、ムーミントロールたちが逮捕されてしまう場面は、もちろん物語を盛りあげるための演出にほかなりませんけれども、「やらかし体験」によって叱られたり責められたりする発達障害者の人生を暗示しているようで、私としては微笑を浮かべてしまいます。
横道 誠 著
畑中さん(編集部注/畑中麻紀。新版ムーミン全集の改訂翻訳者。横道誠氏の著書『なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか』に「ぴったりの居場所がない人のために」というコラムを寄稿)は「自閉的ということなら、本作に登場するホムサがいちばんそうだと思う」と言っていました。たしかに人間のような生きもののホムサが見せる控えめな態度と旺盛な空想力は、ニューロマイノリティの特徴にかなっています。
また畑中さんは「スウェーデン語の母語話者が『ホムサ』という名前を聞いて連想するのは『ホモセクシャル』みたいです」とも教えてくれました。
なるほど、そうわかると、『たのしいムーミン一家』でトフスランとビフスランがトーベの同性愛を仄めかしていたのと同様の役割を『ムーミン谷の夏まつり』ではホムサが果たしていることになりますね。このようなトーベの仕掛けに対して、私はいつもニューロマイノリティらしい「強烈なこだわり」を見てとります。