そんな世界的なアルコール規制強化のトレンドで、「健康への害」とツートップで根拠とされているのが「社会への悪影響」――。つまりは、過剰な飲酒が暴力などの違法行為を誘発しているというのだ。

 それを裏付ける「エビデンスづくり」も着々と進んでいる。昨年5月、世界的医学誌「Lancet」の東南アジア地域版に、日本とほぼ同じ人口1億3000万人を擁するインドのビハール州で行われた研究結果が発表された。

「米国International Food Policy Research InstituteのSuman Chakrabarti氏らは、2016年4月からインドのビハール州で施行された厳格な禁酒法が住民の健康に与えた影響を調べる研究を行い、導入後は男性の過体重/肥満と女性の暴力経験が減少していたと報告した」(日経メディカル24年6月20日)

 男性の飲酒がDVの呼び水になるというのは、実は日本国内でもかねてから研究が進んでいる。

「飲酒とDVとの関連性には諸説ありますが、刑事処分を受けるほどのDV事件例では犯行時の飲酒は67.2%に達していたという報告があり、激しい暴力においては飲酒との相関がより強いようです」(厚労省e-ヘルスネット)

 また、琉球新報によると、沖縄県警が2020年1月~11月末に摘発した全刑法犯2402人を調べると、なんと25%に当たる600人が事件当時に飲酒していた。さらに、凶悪犯48人のなかで20人(約42%)が飲酒状態。DV関連で摘発された126人の中では80人(約63%)が酒を飲んで犯行に及んでいた。

 …という話をすると「酒が悪いのではなく、酒で己を見失う者が悪いのだ」と、とにかくこのような「社会への悪影響」を全力で否定したくなる人も多いだろう。ごもっともだ。しかし、一方で世間的には「真面目な社会人」とされている人が、酒を飲んだ途端に「自制心」がスコーンとどこかへ飛んでしまい、「犯罪者」へ堕ちるということが、我々のまわりでは当たり前のように起きている。