その非常にわかりやすいケースをつい最近、我々は目の当たりにしている。USスチール買収をめぐって日本製鉄と対立をしているクリーブランド・クリフス社 ゴンサルベスCEOが記者会見にあらわにした「日本への憎悪」である。
「日本は邪悪です。日本は中国に、鉄鋼関連も含めて多くのことを教えた。われわれはアメリカ合衆国だ!日本は注意しろ!日本は己を分かっていない。1945年以来、何も学んでいない!アメリカがどれほど善良で、慈悲深いか学んでいない」
これは何もこの人が特別という話ではない。1980年代のジャパンバッシングでは今、我々が中国産に向けているのと同じような憎悪が「日本産」に向けられ、日本人自体もかなり差別を受けた。愛国心が刺激されて頭に血が上ると、「事実」よりも「憎悪」が勝ってしまうのが、人間なのだ。
ただ、このまま日本製鉄のUSスチール買収が失敗すると、アメリカにとっても不利益になるように、愛国心による他国へのバッシングというのは「自滅」につながることが多い。
こんなことを言うと気を悪くする人もいらっしゃるだろうが、今回の亀田製菓の不買運動もそのパターンだと思っている。もしこの勢いで経営が悪化すれば愛国心溢れる方たちが望むように、インド出身のCEOが辞任して、「梅の香巻」が国産原料に切り替わるかもしれない。不買運動を頑張っている人たちの「大勝利」だ。
しかし、一方でここまで亀田製菓を痛めつければ、米菓事業全体に大きなダメージが及ぶわけだから当然、米菓の生産量も減少する。それは国内の米農家にも大きなダメージを及ぼすだろう。
先ほども申し上げたように中国産は「梅の香巻」だけで、それ以外の商品はすべて国産原料を使っているからだ。
その中でも特に深刻な被害を受けるのは、新潟の米農家だ。実は亀田製菓グループは「地域農業との連携」を中長期的な経営課題に掲げている。この施策として食事事業本部長を担当者として、新潟県産米を使用した米粉100%のパンブランド「タイナイ おこめ丸パン」の拡販に力を入れている。
2023年度実績では新潟県産米使用量は223トンだが、これを2026年度には800トン、2030年度には1200トンにまで引き上げていく目標だ(亀田製菓グループ 統合報告書2024)。
しかし、不買運動で本業が傾けば、「地域農業との連携」という中長期的な課題に取り組む余裕などない。新潟県産米使用拡大の目標は当然先送りにされる。最悪この米粉パン事業自体の存続も危ぶまれる。これで最も苦しむのは、原料を供給する新潟の米農家であることは言うまでもない。
これが「愛国心」がつき動かすナショナリズムの恐ろしいところでもある。