もう一つ印象的だったのは、配車アプリで呼んだタクシーの到着時間が、以前よりはるかに早くなったことだ。あるタクシー運転手は「乗客が少なくなり、収入は半分になった。特に外国人を本当に見なくなった。今は1日12時間以上、月に1日も休まず働いてようやく生活できる状態だ」と話していた。

 とにかく、上海に滞在している間、あちこちから「お金を稼げなくなった」と聞いた。「コロナの3年間を生き残ったのに『消費降級』で死んだ」と、多くの倒産した会社の経営者が口にしていた。

 上述のスターバックスは、20年前にはどこのオフィスビルやショッピングモールでも入れたいテナントであり、一種のステータスのような存在だったが、今は低価格戦争で負けつつある。ここまでに至ったプロセスは、まさに、中国経済の変遷を象徴している現象だ。

変化の中で見える希望

 一方で、街の雰囲気の変化に伴って、人々の行動や振る舞いが非常に落ち着いているようにも見えた。かつて「歩行者に人権なし」と揶揄されたほどの交通マナーは大きく改善され、車は歩行者のために減速して待つようになった。クラクションの音も激減した。

 特に、若者の礼儀やマナーが格段に良くなってきた印象を受ける。同行した日本人の年配者は、地下鉄で(優先席ではなく)一般席に座っていた若者が席を譲ってくれたと驚いていた。「日本では、優先席で居眠りのふりをする若者が増えているのに」と驚いて感心していた。

 経済が低迷し、人々は厳しい生活を強いられているが、それでも知恵を絞り、たくましく堅実に生きている。上述の「弁当持参」の友人は、「外食が減った分、健康的な食生活になったから、いいことだと思う」話していたのが印象的だった。という声に象徴されるように、逆境をポジティブに捉える姿勢も見られる。

 中国人のDNAには「したたかさ」が刻まれている。今の苦しさに身をかがめながら、次の跳躍を準備しているのだと信じたい。