そこにSNSがある。使いこなすアーティストは、作品やクリエイティブなどを通じて、自分自身を表現し、世代や国境を超えてユーザーの共感を呼んでいく。
MZ世代の台頭は、英語圏の楽曲が世界的ヒットの大半を占めていたという、これまでの音楽業界を変えつつある。実際にアメリカやイギリスといった国以外から、世界的スターが誕生している。
K-POPスターが韓国語で歌いながらも、高いダンスパフォーマンスが認められ、国際的スターの仲間入りを果たしたのは記憶に新しい。Adoや藤井風も日本語の楽曲が受け入れられている。ラテン語圏のアーティストは世界中で注目されている。
藤倉氏は「これまでの常識が覆った。10年前は漠然と、日本のアーティストが世界の頂点に立つのは難しいと思っていたが、今はどの国のアーティストにもチャンスがある」と指摘する。
ビジネスで国境を超える
こう話す藤倉氏も音楽ビジネスを通じて海外との壁を打ち破ってきた。親会社のユニバーサルミュージックグループ(米カリフォルニア州)は、世界60カ国・地域で音楽ビジネスを展開し、300万超の楽曲を管理する世界最大の音楽会社だ。
藤倉氏はその日本法人のトップに14年1月に就任した。現在(23年12月期)まで10年連続で過去最高の売上高を更新しながら増収増益を達成している。この間に売上高は2.6倍に伸長した。
ただ就任当初、海外からは、日本の音楽市場は国内向けのものと捉えられていたという。
藤倉氏自身も、世界各国のトップが集まる本国経営会議で末席に座らされ、名前すら覚えられていなかった。まずは、顔と名前を覚えてもらうことから始め、日本の音楽ビジネスを理解してもらうため「ヒット曲を生み出し、業績を上げること」に注力した。
とはいえヒット曲を生む秘策はない。「時代とともに音楽の聞き方も変わるが、どんな時代になっても(我々は)アーティストとともに歩み、世代や国境を超えて音楽の感動を届けることに変わりはない。届ける手段は劇的に変化しているが、アーティストとファンが地道に向き合うことが実を結ぶ」と言い切る。
変わったことがある。新人を発掘する際の見極める基準だ。以前はアーティストと契約する際に、「東京ドームでのライブ」「紅白歌合戦での歌唱」「ミリオンセールス」をどれか1つでも良いから妄想できるかどうか、それを基準に据えていた。
音楽の楽しみ方が多様化した今は違う。「世代、国境、時代、予想の4つのいずれかを超えられるか」を基準に、新たな才能の持ち主を探し続けている。