テレビ局と芸能界、スポンサーの間の
「無法地帯」に切り込んでいくことが必要
さて、今回の中居さんと女性、そしてフジテレビの問題は、判明している状況からみて被害女性に対する深刻な人権侵害である。さらに、それが芸能界とテレビ局との関係性において、組織的な背景を有する可能性も指摘されている。取引先であるスポンサー各社はフジテレビに対して、救済として働きかけることにより、その負の影響を防止・軽減するよう努めるべくアクションを起こすべきということになる。
実際にフジテレビに働きかけた企業もあるかもしれないが、花王の対応でさえ十分とは言えないし、それ以外の多くの企業は、自らに火の粉が降りかかることを避けるための限定的な対応であり、ビジネスと人権の観点が欠落しているように見える。
我先にとCM放映を見合わせる行動は、「社会も広告主も怒っている。本気だ」との姿勢を示し、フジテレビを追い込み、圧力をかけることにはなる。ただし、負の影響を取り除くための行動を同社に確実に取らせることにはならず、被害を受けた方の救済にもつながらないし、被害を生じさせる構図を改めさせることにもならないだろう。
もっと言えば、問題となる構図はフジテレビだけの問題ではないだろうし、テレビ局と芸能界、スポンサーの間の「無法地帯」(不適切な関係性)をビジネスと人権の観点から厳しく切り込んでいくことが必要だ。筆者が先に「十分な対応とは言えない」と述べたのはそういうことだ。
一方、サントリーが「透明性の高い調査と事実関係の確認を求める」としたことは、救済の観点をもう少し明確にすればなおよいが、現時点で取りうるアクションとして評価できる。こうした姿勢を多くの企業が取ることこそ、本当の救済につながり、人権侵害という負の連鎖を断ち切ることにつながる。
残念ながら、多くの日本の企業にとってビジネスと人権はいまだ「お題目」らしい。負の影響の防止・軽減に真摯に向き合っているのか、甚だ心許ない。自社で起きているはずのパワハラ、セクハラ、カスハラといった被害もまた深刻な人権侵害だが、そうした状況が改善されないのも同じ理由だと言える。
危機管理は、優しさでできている。自社さえよければ、ではなく、自らがどれだけ社会に正の影響を与えられるかの観点が重要だ。他者を慮る優しい眼差しを欠いた危機管理は、やはりどこか足りない。