受験勉強のストレスに加えて、子どもたちのIT環境の変化も大きな影響を与えた。2019年、国が学校のICT環境整備を図るため「GIGAスクール構想」を打ち出し、児童にタブレットが一人一台配られたことで「学校の風景が一変してしまった」と百合さんは困惑している。

 塾で難問ばかり解いている児童にとって、学校の授業は退屈でしかたない様子。すると授業中、タブレットを開いて周囲に分かるような大きな音量で堂々とYouTubeを見ているのだ。担任が児童を注意すると「うるせー!」と声を荒らげ、「加齢臭!くせーーー!」「つまんねー、何この授業ー。意味ねぇー」「マジ消えてほしいわー」と、相手が言われたら嫌だと分かっていることを次々と叫び出す。

 タブレットを取り上げられると、「なんで俺だけ!?あいつだってやっている」と反発する。その教員と押し問答している間、他の児童はカードゲーム、折り紙、トランプを始めて教室はまるでカオスな状態。百合さんは次々に児童らを注意していくが「もぐら叩きのようだ」と途方に暮れる。

 担任が「他の人の邪魔をして授業を受けたくないなら、廊下に出ていなさい」と言ってしまえば「は~あ~ぁ?」とチンピラのような口ぶりになり、「今、行けって言われましたからー!」と言いがかりをつけ、廊下に飛び出してゲラゲラと笑いながらどこかに走って「脱走」してしまう。百合さんは、常にその児童たちを追いかけるのに必死だ。

「憲法第9条って分かります?」
「うざい、死ね!」と暴言

 そうしたストレスの矛先は、担任だけでなく音楽など専門科目の教員らにも向いた。注意を受けて気に入らない児童は「あーあー、何してくれてんの?憲法って知ってますか?俺ら、平等だから。精神的に傷ついたので、訴えます」と主張。タブレットには音声録音や写真、動画を撮る機能がついているため、荒れている“主犯格”の児童は、クラスメートに教員とのやりとりを動画で撮らせた。