また、最近では、大リーグでの大谷翔平選手の活躍もプラスに効いている。アメリカでは、一番人気のスポーツが野球だと思ったことはないが、それでも大リーグは大リーグだ。アメリカのスポーツメディアは、大谷選手の一挙手一投足を取り上げ、それこそ軽くお辞儀しただけでも、「これこそ日本の美だ」という調子で報道する。

 2019年からの4年間の駐在時は、アジア系住民に対するヘイトクライムは深刻で、少なくない数の日本人も被害に遭ったが、アメリカという国全体としては日本に対する印象は良くなったと感じている。

国内世論の中で拡散する
「アメリカ第一主義」

 保守派の価値観の話に戻ろう。彼らは、日本というある意味での理想郷の人々と価値観を共有しているのだから、自分たちは人種差別主義者では断じてないと考える。

 一方、同じアジア系でも中国のことは、容赦なく批判する。民主主義国家とは大きく異なる中国政府の価値観や政治思想、国としての政策や行動を批判している限りは、必ずしも人種差別的とは断定できないだろう。

 ただ、中国をかつてのソビエト連邦に代わる邪悪な敵と決めつけて憎悪の度合いを強めているのは、それこそトランプ大統領が掲げるような「アメリカ第一主義」が持つ排他的要素の表出に他ならない。実際、彼らにとって日本が思想上の理想郷だとしても、日本企業によるアメリカ企業の買収には反対する。

 2023年12月、日本製鉄はアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収を発表したが、保守派に支えられるトランプ前大統領(編集部注/当時)は、「私なら即座に阻止する」と述べた。さらに、バイデン大統領(編集部注/当時)までが買収反対の声明を出した。

 バイデン大統領(当時)は自由貿易推進の立場かと思っていたが、必ずしもそうではないようだ。大統領選挙が近づく中、国内世論を気にしなければならなかったということなのだろうが、その国内世論の中で、「アメリカ第一主義」が拡散し、浸透していることもうかがえた。