「“106万円の壁”撤廃は、中小企業にとっては踏んだり蹴ったり。社会保険の加入を免れるためにパートの労働時間を20時間未満にすると、結局人手不足になる。これ以上は持ち堪えられないといって、保険料負担を苦にし廃業する会社が続出するのではないかと危惧しています」
東京商工リサーチによると、「税金滞納(社会保険料含む)」を一因とした倒産が、24年1月から8月で計123件(前年同期比127.7%増)と急増している。年間200件を超える可能性も出てきた。
「106万円の壁」撤廃で
どのくらい損するのか?
企業側の負担はどれだけ増えるのだろうか。
北村さんの試算によると、時給1200円で週20時間働くパート従業員を社会保険に加入させると、1カ月で社会保険料(介護保険を含む健康保険料と、厚生年金保険料は)は1万5538円(※東京都在住、全国健康保険協会HP掲載の保険料率参照)。
仮に企業の従業員数が51人以上でこのうちパート労働者が10人社会保険に加入したとすると、1カ月で15万5380円、年間で186万4560円の負担増となる。大勢のパートやアルバイトで成り立つ、スーパーや飲食店、レストランといったサービス業などへの経営的なダメージは計り知れない。
冒頭の居酒屋のケースでは、男性(月収30万円、シフト制)1人、女性パート(時給1200円、週20時間)2人が働く。全員社会保険に加入させると、会社側の社会保険料の負担は7万5896円、年間91万0572円にもなる。
厚生年金に加入できる企業規模の要件について、厚労省は2年後の27年10月に現在の従業員51人以上から21人以上に緩和し、4年後の29年10月に撤廃する方向だった。
しかし、1月29日に示された案では、2年後の27年10月に現在の従業員51人以上から36人以上に緩和し、その後29年10月に21人以上、32年10月に11人以上、そして35年10月に完全撤廃する方向で調整に入った。
10年後には規模にかかわらず、居酒屋のような従業員3人の企業でも、パート1人が20時間以上働いたら厚生年金加入が義務づけられるということになる。これによって小規模の会社では、保険料負担を苦にした廃業を余儀なくされる可能性もある。