15分充電を小刻みに行うのが吉
第1レグ:横浜~月夜野(203.3km)

 充電率100%で横浜を出発後、群馬北方の月夜野までは晴天で路面も全区間ドライ。スタッドレスを履いていたが至極快適だ。BEVは長所と短所がハッキリ分かれる乗り物だが、なかんずくエンジンノイズが過大となりやすい軽自動車におけるエンジン透過音がないことのアドバンテージは、普通車におけるエンジン車とBEVの対比より格段に大きい。

 乗り心地は、軽規格の限界はあるものの滑らか。デイズの「ハイウェイスターGターボ・プロパイロットエディション」に対して200kg重いことはプラスに働く一方、上下方向の可動領域が小さい軽のサスペンションで過大な重量を支えるのは簡単ではない。

 現行サクラ/eKクロスEVのPFは軽専用ではなく新興国向け小型車のもの。車重やコストでは不利だが、フロアの強固さやストロークの大きさでは有利。その特性を生かして上手くチューニングしているという印象だった。

 一方で、軽BEVの最大の弱点である航続距離の短さも顕著に出た。寒い中、エアコンOFFでどのくらい走れるか試してみると、走行120.6km、バッテリー残量15%で埼玉県は熊谷に到達。1kmあたりの電力量消費率(電費)は8.6km/kWhだった。

 走行距離を電費値で割ると消費した電力量を算出できる。この場合は14kWh、100%換算だと16.5kWh。諸元表によればバッテリー容量は20kWhとなっているが、サクラの場合その数値は物理容量であって、実際の走行やV2H(家屋とクルマが電力を融通し合えるシステム)に使えるユーザブル容量はもっと小さい。ユーザーにとって意味があるのはもちろんユーザブル容量であり、それを知っておくのは遠乗りをするのに重要だ。

 実はこの16.5kWhという数値も流動的。化学変化でエネルギーを蓄えるバッテリーは、液体燃料と違って物理量で正確に表すことができない。充電率の表示はあくまでコンピュータの推算値なのだ。温度をはじめとするバッテリーのコンディションによって充電率100%と判定される電力量が変動する。こういう分かりにくさが、BEVの大きな弱点だ。

 気温1度の熊谷では15分充電を行った。三菱「i-MiEV」や日産リーフなどリチウムイオン電池式BEVのリテール販売が始まった2010年当時から、BEVの急速充電といえば30分という固定観念がある。しかし、バッテリー容量の小さなサクラの場合、最初の15分くらいはスピード充電されるものの、それ以降はスピードが大きく落ちてしまう。急速充電器が多いエリアでは、15分充電を小刻みに行ったほうが断然効率がいい。ここで、充電率は15%から52%に回復した。

 熊谷を出て北上を続けると、気温はほどなく氷点下に落ちた。以後、横浜への帰路、群馬の伊勢崎付近まで0度を上回ることはなかった。2回目の充電は熊谷から47.9km走行地点の群馬・前橋。いよいよ我慢できず暖房を使ったので電費は6.8km/kWhに低下。15分充電すると充電率は8%から50%に回復した。回復幅が熊谷に比べて大きかったのはバッテリーが温まり、充電の受け入れ性が高まったからだろう。

 次は群馬・月夜野へ向かい、34.8km走行で充電率は10%に。大して走っていないのにもう充電かと思ったが、前橋から標高差約400mを駆け上がったことで電費が5.8km/kWh止まりだったことが主因だ。標高1080mの新三国トンネルまでの標高差、タイヤの抵抗が増大する圧雪路の出現などに備えて30分充電した。小容量バッテリーカーの場合、効率は悪いが背に腹は代えられない。充電率は10%から78%へ回復。