このように、「規模の経済性」と「習熟効果」を最大限活用することで、日本マクドナルドは低コストを実現しました。その結果、販売価格の引き下げによる顧客数の増加を促進し、市場シェアと収益性の両面で成長を実現できたと考えられます。
当時のデフレ経済の中でもこうした低価格戦略により、日本マクドナルドは成長を続けてきました。しかし、2010年代に入ると、その成長が鈍化し始めます。何が起こっていたのでしょうか。
低価格戦略の落とし穴
2度の不祥事で業績は悪化
日本マクドナルドは、豊富な経営資源による“低価格”を武器に、業界内の市場シェアを拡大していきました。
売上高がピークに差し掛かる2010年には、フランチャイズチェーン店を含む全店売上高が当時過去最高となる5427億円(2010年12月期)を記録。これは、業界2位のモスバーガーの売上高631億円(2011年3月期)と比べても圧倒的です。
しかし、この低価格戦略には落とし穴もありました。それは、顧客数は確かに増加したものの、顧客満足の低下を招いたことです。
日本マクドナルドは当時、ハンバーガーやコーヒーなどの「100円マック」、ビッグマックなど「1個買うと1個無料!」といったキャンペーンを繰り返したことで、これまでとは異なる顧客層も獲得していきました。例えば、中学生や高校生を中心とした学生層です。このような顧客層が店内に長時間滞在することで、店舗は常に混雑した状態に陥りました。結果、これまで提供してきた顧客体験を損なう事態をもたらしたと考えられます。
日本マクドナルドも状況を打開しようと、さまざまな策を講じます。
ただ、こうした施策はなかなか思うような成果にはつながりませんでした。
例えば、顧客数の増加に伴ってレジが混雑し、待ち時間が長くなっていた問題に対しては、提供時間を少しでも早めようと、2012年に注文カウンターのメニューを廃止し、全メニューを店内ポスターで表示する取り組みを実施。これにより注文の効率化を目指しました。しかし、この施策は多くの反発の声を招き、1年後にはカウンターメニューを復活させる結果となりました。