昨年7月刊行の防衛白書は「(中国の)公表国防費の名目上の規模は、過去5年間で2倍以上、過去24年間で約30倍の規模となっている」と述べている。諸国の例を知らずに、この数字だけを見る人々が「異常な増大」と思い、中国の軍事力が急速に拡大している、との恐怖を感じて、反感を招くのも当然だ。だが、「異常」か否かを判断するには、中国より先に高度経済成長を遂げた他の国々との比較や、中国の経済、財政規模の拡大との比較が必要だろう。
日本の防衛費も高成長期には急増
実は日本の防衛費も高度成長期には急速に増大した。日本政府は1960年に「所得倍増計画」をつくり、翌年度から実行に移したが、その1961年度から1979年度まで、防衛予算は65年度の9.6%を除いて、連年2ケタ成長を続け、75年度には21.4%増を記録した。
あまりの急激な防衛費の増加に対し、国内だけでなく米国の一部からも「日本の意図は何か、軍事大国をめざすのでは」との疑念も出て、政府は76年11月に「当面……国民総生産の100分の1を超えないことをめどとして」と、1%枠を決めた程だった。防衛白書は中国について「過去24年で約30倍」としているから、同様に日本についても1960年から84年まで24年間の防衛予算の伸びを見ると、60年度の防衛関係費(防衛施設庁予算を含む)は1569億円、1984年度は2兆9346億円で、その間に18.7倍になっている。
だが、当時の日本が特別の意図をもって、必死で防衛費を増やしていた訳では全くない。GDPは60年の16.68兆円から、84年の306.8兆円へと18.39倍になり、歳入(一般会計)は26.6倍に増えていたから、防衛費の伸びは無理のない範囲だった。国の財政規模が拡大すれば、それにつれて防衛予算も増加するのは、望ましいことではないとはいえ、官僚機構のバランスの中では自然の勢いだろう。
こうした現象は日本より少し遅れて高度成長期を迎えた韓国、台湾でも起きた。韓国では「日韓基本条約」が結ばれ、日本からの資本、技術の流入が始まった1965年からの24年を取ると、国防予算は282億ウォンから89年の6兆6380ウォンへと235倍の急増となった。これは経済の急成長と激しいインフレが重なったためだが、ドル換算でも79倍になっている。台湾も同じ時期の24年間を見ると、国防予算はドル換算で56倍になった。