自転車で旅をしていると珍しがられたりおもしろがられたりして家に招かれ、食事をご馳走になることがたくさんあった。また各地で友人になった人の家に長期で居候することも多く、いろんな国の家庭料理を数えきれないほど食べさせてもらったが、魚が出てきたのは本当に数えるほどだった。その1つが東アフリカ、タンザニアのザンジバル島で食べた白身魚の料理だ。

アフリカのザンジバル島で
心温まる“食の交流”

 ザンジバル島は真っ白なビーチとミルキーブルーの海が広がるまさにパラダイスのような島で、まぶしい陽射しを浴びて人々も輝いていた。村を散歩していると子供たちがワッと集まってきて弾けんばかりの笑顔でぴょんぴょん跳ねる。

 金品をねだってくる子供も少なくないアフリカだが、ザンジバル島の子供たちは外国人に挨拶することが愉快でならないといった様子で、「ジャンボ(こんにちは)、ジャンボ!」と笑顔で跳ね続ける。僕が思わず破顔すると彼らもますます大口を開け、互いにゲラゲラ笑う。毎日楽しくて仕方がない。

 休養を兼ねてこの島に長逗留していたら、レンタルバイク屋を始めたばかりだという30代の男性、アリライと知り合い、仲良くなった。レンタルバイク屋といっても1台の自家用バイクを貸しているだけだ。僕は自転車があるので借りる必要もない。移動手段を持っていない旅行者を相手にすればいいのに、アリライは仕事そっちのけで僕とのおしゃべりに興じ、「俺ん家に遊びにこいよ」と誘ってくる。

 家は村外れの海のそばにあった。小屋のような小さな家から奥さんと小さな男の子が4人ぞろぞろ出てきたので、手品でも見ているようだった。奥さんは突然の来客に戸惑う様子もなく、「ウェルカム」と穏やかな口調で微笑んだ。中に入ると床はなく、砂の地面にむしろが敷かれているだけだ。サンゴを砕いて塗り固めた壁は岩のようにでこぼこしていて、昼間なのに洞窟のように暗い。

 とうもろこし粉でつくったパンケーキが出された。食べてみると、口溶けがよく、意外にも垢抜けた味わいだ。

「妻は料理好きなんだ。晩飯も食べていけよ」