アリライは誘ってくれたが、突然の訪問だったし、食材も用意していないだろう。奥さんに悪いから断った。アリライは残念そうな顔をし、「今後の予定はどうなってるんだ?」と聞く。奥さんの手料理をどうしても食べさせたいらしい。結局、2日後の夜にまた遊びにいくことになった。
万事ポレポレ(のんびり)のアフリカに染まっていた僕が2日後、20分ほど遅れて待ち合わせ場所に行くと、アリライはすでに待っていた。時間どおりに来ていたらしい。慌てて謝ったら、彼は「いいからいいから」と笑う。
遠慮がちだった子どもが
くっついて離れなかった
道すがら、前回訪問時の顛末を聞かせてくれた。奥さんはあの日、僕が晩飯も食べていくものと思い込み、市場に魚を仕入れにいったというのだ。
「せっかく魚を用意したのに、なぜユースケを帰したんだって怒られたよ」
アリライはばつが悪そうに白い歯を見せる。ふいに、日本の離島で出会った人々や子供たちのはにかんだような笑顔を思い出し、島の空気はどこも似ているなと感じた。家が見えてきた。子供たちや奥さんが外で待っている。わわ、いつからそこに?僕はまたしても平謝りに謝った。
家に電気はなく、缶に入れた油の灯火が唯一の明かりだった。子供たちは僕が何か言うたびにキャッキャッと反応する。前回は遠慮がちにこっちを見ていたのに、もう壁は取っ払われたようだった。
末っ子で5歳のマヌアルは僕にくっついて離れなかった。顔が空気で膨らませたようにパンパンでまん丸で、とびっきりの愛嬌があり、何をやってもまわりに笑いが起こるような子だ。彼は僕からの注目を浴びてますますおどけ、げら(笑い上戸)の僕は笑いっぱなしだった。
洞窟のような家の中で味わった
レストラン級の“絶品魚スープ”
彼らは先に食事を済ませていたのか、僕の分の料理だけ出てきた。白身の魚をぶつ切りにしてココナッツミルクで煮たスープとご飯だ。カマスに似た繊細な味とまろやかなココナッツミルクがきれいに調和している。塩加減も絶妙な薄さで、素材のうまさが前面に出ていた。
でこぼこの壁が灯火によって陰影が濃くなり、家の中はますます洞窟のようになっていた。原始的な雰囲気の中で、レストランで出されるような上品な味わいの魚スープをすすっている。
波が遠くで静かに鳴っていた。