経営の中枢 CFOに聞く!Photo by  Yoshihisa Wada

埼玉県を地盤とする食品スーパーマーケット、ヤオコーを傘下に抱えるブルーゾーンホールディングス(HD)は、ライバルが店舗運営手法や出店戦略を参考にするなど、業界内の注目度が高い。ヤオコーではこれまで、財務など管理部門のトップには大手銀行出身者が就いてきた。現在のヤオコー専務取締役管理本部長、ブルーゾーンHD取締役の上池昌伸氏は日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)出身で、全社にROIC(投下資本利益率)を浸透させるなど、財務戦略を仕切ってきた。その狙いと効果はどのように出ているのか。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿で、詳しく話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

発想の起点はドルコスト平均法
今は出店するときではない

――物の値段が上がり、金利も上昇する現在の環境は、食品スーパーマーケットにとって、利益を確保するのが非常に難しい状況です。現状をどう分析しています。

 バブル経済が崩壊して約30年間、金利が下がり続け、2年ほど前まではゼロ金利でした。今は潮目が大きく変わり、少しずつ賃上げが進み、金利も上昇し始めました。人件費が上がったことをベースに建築費と物流費が上がり、あらゆる物の値段が上がるサイクルが動きだした状況です。

 食品スーパーマーケット業界は、急にヒット商品が生まれて、売上高が爆発的に伸びるような業界ではありません。私は銀行からヤオコーに転じて、財務を担当するようになって感じたのは、目先の売り上げ動向に一喜一憂する必要は全くないということです。食品スーパーの経営は、(金融商品を一定期間で一定金額ずつ購入する投資手法である)ドルコスト平均法のイメージでいいのです。

 物の値段が上がって金利も上がっている今は、新規出店は採算が合わなくなりつつあります。店頭価格が上がればいいのですが、遅効性があります。そんな出店コストが高い今は、どんどん出店することはやめた方がいい。ドルコスト平均法で考えると、今は控えるべきときです。逆に出店コストが低いときは、出店すればいいわけです。

 一方で、バブル崩壊後は、われわれは出店を増やし、業績を拡大することができました。景気が低迷していましたので、金利は0%に近く、新しく店をつくるコストは低かったからです。ヤオコーが遅ればせながら、業界で規模の大きなスーパーに追い付く規模になれたのも、そんな投資環境があったのです。

――インフレで出店コストは上昇していますが、店舗当たりの投資額はどのような状況でしょうか。

 これまでは1店舗20億円の売上高が見込める店舗は、10億円強でつくることができました。ところが今は、20億円程度の出店コストがかかってしまうイメージです。ROIC(投下資本利益率)で言うと、決してよくはありません。

 小売業の成長戦略の柱は、新規出店と既存店の成長の二つ。新規出店のROICが悪化している今は、新規での成長はあまり考えられません。既存店で利益を上げるときです。

 かつては出店コストが安かったので、新規参入コストが低く、ライバルの新規出店がたくさんありました。ところが今は昔ほど出店できません。そうすると、今は既に店を持っている会社が強いことになります。過去20~30年で、低いコストで出店した店を持っているからです。その店に利益を出させた方がいいのです。

 ヤオコーはやることは変わりません。ただし、どこでもうけるかを考えます。今は既存店でもうけることをしっかり考えるときです。新店に過度に頼るときではありません。

――ヤオコーはROICを重視しています。社内でどのように活用しているのでしょうか。

 実はROICをそんなに強調するつもりはないのです。

ブルーゾーンHDは開示資料にもROICについて言及があるが、強調するつもりはないと話す上池氏。では具体的に小売店の経営にどう生かしているのか。さらに話を聞いていくと、本社の管理部門だけではなく、店舗運営にも徐々に浸透し始め、手応えがあるという。話題はROICの活用方法から、食品スーパー業界で相次ぐM&A(企業の合併・買収)の考え方にも発展した。次ページでお届けする。