西武ホールディングス(HD)が複合商業施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」を今年度中に売却する方針だ。売却額は4000億円超に上るとみられる。同社は今春に公表した中期経営計画で、不動産に価値を上乗せして再販売する「不動産回転型ビジネス」の拡大を掲げており、東京ガーデンテラス紀尾井町の売却はその一環。鉄道沿線の開発を行う鉄道会社が多い中、なぜ西武HDは不動産の売却を進めているのか。特集『株価、序列、人事で明暗! 半期決算「勝ち組&負け組」【2024秋】』の#4では、西武HDが新たな不動産ビジネスを展開する狙いを詳述し、その成算も占う。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
増収増益の好決算だが…
ビジネスモデルの転換は必然
鉄道各社の業績は新型コロナウイルス感染拡大前の水準まで回復しつつある。西武ホールディングス(HD)も例外ではない。同社が11月7日に公表した2025年3月期中間決算では、営業収益は前年同期比5.6%増の2523億円、営業利益は同6.2%増の338億円と増収増益だった。国内の「プリンスホテル」など、同社の中核事業であるホテル・レジャー事業が好調で、全体の業績をけん引する形となった。
その2週間後、一部報道で西武HDが保有する複合商業施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」の買い手に米投資ファンドのブラックストーンが浮上していることが明らかになった。売却額は4000億円超に上るとみられ、不動産取引額として国内では過去最高水準となる見込み。
西武HDは今春に公表した中期経営計画で、不動産回転型ビジネスに参入すると表明していた。不動産回転型ビジネスとは、不動産に価値を上乗せして売却し、売却益をさらに別の不動産に投資していく、いわば「わらしべ長者」のようなビジネスモデルだ。今年度中の譲渡完了を目指す東京ガーデンテラス紀尾井町の売却もこの一環となる。
「流動化については、当社グループが保有する全ての物件を検討の対象として、聖域なき流動化を実施していく」。西武HDの中村祐哉経営企画本部IR部長がそう述べるように、西武HDは東京ガーデンテラス紀尾井町の売却を皮切りに、不動産回転型ビジネスを広げていく考えだ。
鉄道業界では不動産事業の拡大がトレンドとなっている。鉄道収入に大きく依存してしまうと、コロナ禍のような事態になったとき大きな打撃を受けてしまうからだ。例えば、東日本旅客鉄道(JR東日本)は、事業費約6000億円を投じて進めている大型プロジェクト「TAKANAWA GATEWAY CITY」を25年3月に開業させる。高輪ゲートウェイ駅周辺の「大地主」として、年間約570億円の収益を見込む。
それでは、足元では“増収増益”で一見好調に思える西武HDがどうして、業界の大きなトレンドとは異なる、不動産の保有を前提とするビジネスモデルからの脱却を図るのか。損益計算書(PL)から貸借対照表(バランスシート、BS)に目を移すと、その理由が見えてきた。次ページでは、東急、京王電鉄、東武鉄道など他の大手私鉄とバランスシートを比較し、新ビジネスへの参入を決めた西武HDの懐事情を解き明かす。