コスト上昇だけではない
木質バイオマス発電の課題

 FITは固定価格での買い取りで、発電コストが上昇しても売電価格への反映はできない。これがコスト上昇に悩む業界全体に暗い影を落としている。

 一方で、経営がうまくいくかどうかのポイントは他にもある、と長年同業界を観察してきた専門紙の記者は語る。

 1点目は立地の良しあしと事業のためのインフラが整っているかという点だ。国内の大半の木質バイオマス発電所は林業が盛んな地域、近隣に燃料となる樹木が豊富な場所に作られる。これは利点だが、それ以上に重要なのは発電に不可欠な水の確保や燃料運搬のトラックが通る広い道路、物流体制の整備、送電線が近くにあるかといった立地条件だ。これらが欠落していると稼働後に思わぬ費用負担を招くことになる。

 2点目は設備(発電機器)の性能と信頼性だ。木質バイオマスの発電機器は環境先進国の欧州製が主流だが、機器によって特性や性能の違いが大きいという。物によってはメンテナンスコストや維持費が想定以上の多額になるケースもある。設備の導入段階で、実績や性能を見極めた機器の選定が必要になるが、それにはノウハウが必要であり、付け焼き刃では対応できない。

 そして、3点目は事業者の運営形態だ。木質バイオマス発電は、複数の地元企業や団体などが共同出資で事業化するケースが多い。地域振興にひと役買う側面はあるが、地元のしがらみや利権絡みでもめ、事業が頓挫したり経営効率が低下するリスクもある。それぞれが本業を抱えるなか、サイドビジネス的な関与に終始すると、責任の所在が見えないデメリットも生じる。

 厳しい経営環境でも、着実に経営を進める事業者の多くは、これらのポイントを押さえることで、早い段階から稼働して安値の原料を確保できている。綿密な事業計画に基づいて運営され、地域のニーズに応え、根付いているから生き残れているわけだ。

事業撤退が相次ぐ可能性も?
懸念される「卒FIT」後

 木質バイオマス発電を含む再エネ発電のFIT制度のもとでの期間は、20年間と規定されている。FIT期間が終了する2032年以降は「卒FIT」の発電所が誕生し、木質バイオマス発電を通じた売電もいずれ自由市場にさらされることになる。

 だが、そもそも他のエネルギーと比べて発電効率が低い木質バイオマス発電は、FITなしでは成り立たないとの指摘は根強い。採算が厳しい状況が続くと、20年の間に減価償却が済んだ設備が徐々に稼働を停止し、事業撤退が相次ぐ可能性も否めない。

 一方、こうした事情とは別に、企業や自治体はCO2削減への貢献が求められ、クリーンエネルギー需要は増している。大手企業の中には近年、自社利用の電気をクリーンエネルギーに転換する目的で木質バイオマス発電事業に参入するケースもある。また、エネルギー価格が高騰する中で、副次的に生産される熱源の活用などでの地域貢献も見直されている。

 脱炭素社会を推進する理念と経済合理性との狭間で、こうした需要を取り込み、付加価値を提供できるか。木質バイオマス発電は来たるべき「卒FITの時代」を前に、大きな岐路に立たされている。