木質バイオマス発電事業の
燃料価格が高騰して採算悪化

 FITのもとでは、発電した電気の一定価格での買い取りが保証されるため、利益を最大化するにはコストを抑えれば良い。木質バイオマス発電で使われる燃料の多くは未利用材(間伐などで発生した不要な木材)や廃材、端材を加工した木質ペレット、東南アジアなどで廃棄されるヤシ殻などだ。それまで無価値同然だったものから電気を作り、固定価格で売電する。はた目には濡れ手で粟の事業のようにもみえた。

燃料となる木質ペレットとヤシ殻燃料となる木質ペレットとヤシ殻(筆者撮影)

 ところが、FITが施行されるとこうした燃料の需給が拡大し、燃料の調達価格も高騰した。特に、ウッドショックによる木材のひっ迫や歴史的な円安でコスト増に拍車がかかった。木質バイオマス発電は、燃料コストが発電コストの7割を占める。国内だけで必要量が揃わず、燃料を輸入に依存する事業者は輸送コストも跳ね上がった。

大手商社が出資する事業者も…
相次ぐ稼働休止や経営破綻

 新宮フォレストエナジー合同会社(新宮市)は2025年1月、関連会社2社とともに破産手続き開始決定を受けた。負債総額は3社合計で約72億4000万円に及んだ。

 同社は2017年に設立された。和歌山県南部の林業が盛んな地域の間伐材や低質材の活用を目的につくられた木質バイオマス発電所だった。燃料のウッドチップに加工する自社工場も備え、電気の副産物として温水など熱供給が可能な設備も本格稼働させた。

 ところが、設立間もなく木材の切り出しや輸送コストが上昇し、さらに円安進行と燃料高騰も重なり赤字経営から脱却できなかった。経営不振が続くなかで、2024年秋に発電設備に不具合が発生、修繕には多額の費用と時間が必要で、業績改善の見通しが立たなくなった。

 林業の町で知られる北海道下川町の北海道バイオマスエネルギー(株)は2024年10月、特別清算開始決定を受けた。負債総額は39億6200万円(2023年3月期)。三井物産や北海道電力が出資し、小型発電プラント11基のほか、木質ペレット製造工場も整備した。

 2021年には石狩郡当別町に発電プラントを追加設置し、発電した電気はFITを通じて、全量を北海道電力に売電した。しかし、当社もまた、燃料の調達難や価格高騰のあおりを受けた。採算悪化から2024年3月末に稼働を停止したが、同時点で34億円もの大幅な債務超過に陥り、同年6月には下川プラントを別会社に事業譲渡し、同年8月に解散。その後、特別清算手続きに入った。

 また、2024年12月、三菱商事が子会社を通じて7割出資し、日本製紙、中部電力など大手企業も株主に名を連ねる鈴川エネルギーセンター(株)(富士市)が稼働を休止した。山形県では山形バイオマスエネルギー(株)(上山市)が試験運転中に爆発事故が発生し、稼働計画が大幅にずれ、経営環境の悪化で再起を断念し、設備を他社に売却して解散。その後、特別清算開始決定を受けている。

 木質バイオマス発電所の経営行き詰まりの情報に頭を悩ませるのは、海外から燃料を輸入、販売する商社の与信管理担当者だ。燃料を売ってほしいとの要請は引きも切らず、特に最近は比較的新規に参入した小規模事業者からの要請が多いという。だが、倒産による焦げ付きリスクも付きまとい、取引には警戒感を募らせている。