スーパーマン・リーの最終決断と勝者の行方
だが、筆者は、たぶん長和グループは多少の譲歩は見せて中国側をなだめても、たぶんこのプランを放棄することはないと考えている。その理由はいくつかある。
まず、李嘉誠氏とその傘下、長和グループは、これまでずっと政治を利用することはあっても、その火の粉をかぶるのをずっと避けてきた。それが彼らの基本姿勢となっている。李氏個人も、かつて香港返還時には中国当局の覚えめでたかったため、名誉職である中国人民政治協商会議(政協会議)副主席就任を薦められたが断固として辞退し、政協会議のヒラ代表のみ引き受けたことはよく知られている。
次に、もし今回の売却を諦めたり、あるいは中国当局が推薦する企業に売却したところで、190億米ドルの収益は得られない。もし中国側が同じ額を払うつもりがあるならば、提示すればいいだけだ。だが、批判記事は出してもお金の話は一切していない。いや、「中国側に出せるはずがない」というのが大方の論評である。
この点についてはもう一つ、中国側の視野から抜け落ちている情報がある。買収プランが発表された4日、李氏の長男で後継者の李澤鉅氏は政治協商会議出席のため、北京にいた。プランが発表されるやいなや、中国共産党首脳部は彼を呼びつけ、事の次第を尋ねたと、香港人メディアが報道している。李澤鉅氏はそこで、「米ブラックロックは企業連合を率いる投資企業に過ぎず、港湾事業の本当の売却先は、イタリアの船舶企業を運営するアポンテ一族だ」と説明した。「相手が港湾事業に詳しい船舶会社だからこそ、売却対象となった港湾の価値を理解し、この買収額を引き出せたのだ」と主張したという。
三番目に、もし今回の売却を諦めたり、あるいは中国企業に売却すれば、トランプ政権、ひいては西洋諸国全体に対して、長和グループがまさに「中国企業」であり、「中国政府の意図に屈する」ことを示すに等しいことになる。そうなれば、港湾事業以外の海外事業も今後、その目にさらされることになってしまう。
四番目に、中国当局の「脅し」は明らかに、「今後、中国や香港でビジネスができないようにしてやる」という意味を含んでいる。だが、前述のように、長和グループの中国・香港ビジネスは全体のわずか12%に過ぎない。「スーパーマン・リー」はこの時の到来に備えて、とっくに資産を世界中に分散させているのである。
そして五番目に、李嘉誠氏も後継者たちも、すでにカナダ国籍を取得している。本拠地の香港を万が一締め出されても、その他の資産を手に彼らは香港を脱出できる。しかし、「ビジネスの神様」李嘉誠氏と長和グループが香港を脱出したとなれば、香港の経済環境に対する世界の評価をさらに悪化させることは間違いない。香港経済はさらに中国に依存することになり、それはトランプ大統領の指摘どおりで、米国の制裁はさらに厳しくなるだろう。国際化を旗色にする香港にとって、そして国際都市香港の力を借りて経済立て直しを図る中国にとって、それを受けて立つことができるのか。
さらに六つ目が、なぜ長和グループはパナマ運河の2港湾だけではなく、中国と香港を除くすべての港湾の運営権をまとめて売却し、港湾事業から撤退することを決めたのか? それは、彼らが今後少なくとも4年間の世界貿易の混乱を予測したからであろう。「ディスラプター」トランプ氏が繰り出す対外敵視の視点からの関税政策はすでに世界を混乱に巻き込んでいる。関税の引き上げにより国際貿易は打撃を受ける。その最大の影響を受けるのは……おそらく港湾事業だ。
今回の「港湾売却」をめぐる一連の騒ぎで、勝者は一体誰になるだろう?トランプ大統領か、中国か、それとも李嘉誠氏か……皆さんの予測はいかがだろうか。