主要株主としてリスクを取り
経営陣と同じ船に乗る
たとえばPEファンドなど、他のファンドを活用して事業ポートフォリオ改革を支援することもあるのですか。
投資先の経営陣がカーブアウトが必要だと判断した場合、JACのノウハウやネットワークを活用してPEファンドに事業を引き継ぐことはありえます。そして、売却で得た資金で、たとえばビジネスモデルの転換に思い切った投資を行う。
従来の製品売り切り型からリカーリング型ビジネスモデルへの進化を必要としている企業はたくさんあります。その進化に欠かせない技術やリソースを素早く獲得するために、スタートアップの買収やクロスボーダーM&Aが選択肢に挙がることもあるでしょう。JACの中には、ベンチャーキャピタル(VC)の出身者もいれば、数多くのクロスボーダーM&Aを手掛けた人間もいます。
日本ではこれまで、スタートアップのイグジットはIPOが中心でしたが、今後はアメリカのように上場企業によるバイアウトがどんどん増えていくと思います。IPOよりも短期間で確実に資金回収できますし、小粒なIPOは投資家や証券取引所が厳しく見るようになっています。上場企業によるスタートアップM&Aは、VCへのリターンにもつながります。
このようにJACの投資先企業を起点に、PEファンドやVCなどと連携して生み出す新たなファンド資本の循環の枠組みを、私は〝ファンドエコサイクル〟と呼んでいます。このファンドエコサイクルをスタートアップから上場企業まで、日本の企業活動を活性化する基盤の一つにしたいと考えています。
JACは時価総額約2000億円から1桁兆円前半程度の上場企業を投資対象とし、約5~10%程度の株式を取得、中長期目線で投資先の成長をサポートすると聞いています。
アクティビストを含む他の上場株ファンドは、一般的に投資先への事前の断りなく株式を取得しますが、JACは相手先と合意し、パートナーシップ契約締結を前提に投資します。そこが他の上場株ファンドとの最大の違いです。
パートナーシップ契約により、投資先経営陣と緊密なコミュニケーションを図り、JACが持つリソースやノウハウ、ネットワークを提供します。その過程でインサイダー情報に触れることもありますから、契約期間中は投資先の株の売り買いはいっさいできません。上場株ファンドは、いつでも株式を売り買いできるのがPEファンドと比較した場合のメリットです。JACはみずからその自由を封じ込め、リスクを他の株主や経営陣と共有する大株主の一社として投資先と同じ船に乗り込みます。

それだけに、変革の強い意志とリーダーシップを持つ経営者がいる会社でないとパートナーシップを組むことはできません。どれだけ潜在力がある会社でも、強い経営者がいないとそれを顕在化させることはできないからです。また、相手に活用の意思がなければ、JACの強みは活かせません。
私は国内外の多くの会社を見てきましたが、変革を成し遂げる強いリーダーほど外部の力を使うのが上手です。日本の大手企業はプロパー経営者が多く、外の世界をあまり強く意識しない傾向があります。また、終身雇用の構造から、組織全体として経験値のダイバーシティが不足しています。特に新しいことを行う時にこれが制約になるので、そこをJACが補完します。世の中には、外の力に頼るのは負けの象徴と考える人がいますが、使えるものは何でも使うくらいのマインドセットがないと、グローバルな競争環境では勝てません。
たとえば、先に触れたようにビジネスモデルを進化させるためにクロスボーダーM&Aを実行するとしましょう。証券会社から提案された買収先候補リストに、これはと思う会社があったとしても、たいていは入札になります。入札だと買収金額は高くなりがちですし、実際に買収できるかどうかもわかりません。JACの場合は、自分たちのネットワークを使って買収先候補を見つけ出し、仮にその時点で売る気がなかったとしたら相手を口説くところまでやります。
PMI(買収後の統合)がうまくいかずにM&Aの効果が出ないケースもよく見受けられますが、JACはPMIにも伴走します。買収先の経営陣を活かすために健全な権限委譲と経営モニタリングの仕組みをどう整備するか、報酬やインセンティブを含む人事制度をどう設計するかなど、PMIに精通した専門家もJACにはいます。M&Aを実行してからインフラ整備するのでは遅く、事前に体制を整えておく必要があります。そうでないと、M&Aの実行力は上がりません。
このように戦略的な意思決定から実行までをサポートし、主要株主の一社として投資先と一緒にリスクテイクしながら、中長期的に持続性のある事業価値創造に取り組みます。投資期間はだいたい3~4年、その間に株式評価マルチプルを上げて時価総額を倍にするのが目標です。