方向性を決めるのは経営陣
JACは実行の加速装置
投資先とは具体的にどのようにコミュニケーションを図るのですか。
トップ同士でのミーティング、互いの上層部数人でのスモールミーティング、トップ経営層と事業部門・ファンクション(人事や財務など本社機能)のヘッドとJACメンバーのミーティングなど、複数のレイヤーでの協議を定期的に行います。
そうした議論を通じて、10年後のあるべき姿から導くロードマップをより詳細なアクションに落とし込み、その実行手法、イニシアティブに遅れが生じた場合は、JACが客観的な目で要因を分析します。仮にリソースの不足が遅れの原因であれば、我々のリソースを提供することもありますし、外部のプロフェッショナルを紹介することもあります。
大きな組織はどこでも部門間の壁があり、それがスピードを低下させているケースが少なくありません。たとえば、営業と生産がうまく連携できていないのであれば、JACが触媒となって壁を乗り越え、アクションのスピードを上げていきます。
勘違いしてほしくないのは、投資先の経営戦略のベクトルを大きく変えるのがJACの役割ではないということです。経営のベクトルは会社が決めることであり、その方向性がJACの考えと合致していなければ、そもそも投資できません。スピードを上げ、より成功確度を高めるのがJACの仕事です。ある会社のトップは冗談交じりに、「大塚さんのチームは戦略実行の加速装置、言わばJACモーターだね」とおっしゃいましたが、言いえて妙だと思います。
最初の投資先となったライオンの竹森征之社長は、「JACの幅広い視野からの提言と実行支援に期待する」と述べています。
ライオンは日本有数の消費財メーカーとして国内では抜群の知名度があり、オーラルヘルスケアではナンバーワンのブランドです。今後も人口が減っていく国内では一般用消費財事業の収益構造改革、アジアを中心とする海外事業は成長施策の強化に取り組んでおり、経営のベクトルは我々の考えと合致しています。何より、竹森社長をはじめとする経営陣が高い企業成長の実現に強い意志を持っていることが素晴らしい。
これからアジアの国々が豊かになり、口腔衛生に対する意識が高まっていくと、ライオンの強みであるオーラルヘルスケア製品を購入する消費者がどんどん増えるはずです。現在の海外事業売上高は全体の3割強ですが、実力値としてはもっと伸ばせる余地が大きい。
竹森社長は海外の同業がどれだけのスピード感で動いているかをよくご存じで、〝時間〟が貴重な経営リソースの一つであることも理解されています。ライオンが成長スピードを加速できるよう、我々も最大限サポートします。
JACの初号ファンドは、銀行や証券会社、保険会社などから約1300億円を集めました。投資実績がない新しいファンドにこれだけの資金が集まるのは国内では異例なことで、機関投資家からの期待の高さがうかがえます。
今回出資してくれたのは、「このままでは日本が沈む」という強い危機感を持っている会社です。マクロ政策だけで日本経済を引っ張っていくのはなかなか難しいですが、ミクロレベルでは潜在力を持った会社がたくさんあるので、それを顕在化させて業績と企業価値を大きく伸ばす会社が増えれば、ミクロの集積が日本経済全体にプラスのインパクトを与えます。その起爆剤として、JACへの期待が大きいことは痛感しています。もちろんファンドとしてのリターンも強く期待されています(笑)。
かつて日本では、メインバンクが中長期目線で融資先の事業価値創造を支援していましたが、いまはその機能が弱まっています。その機能を果たすことを期待してJACのファンドに投資すると言ってくださった金融機関もあります。
いま、後続ファンドの準備も進めているところですが、投資先の成長を通じて、投資先が属する業界全体や、バリューチェーンでつながっている企業にもプラスのインパクトをもたらし、ひいては日本経済全体にポジティブなスパイラルを生み出していくことも目指しています。
時間という経営リソースはどの企業にも平等に与えられたものだからこそ、同じことを1年で実行するか5年かけるかで大きな違いが出ます。時間をかけるほど、外部環境も変化します。石橋を叩いてばかりでは取り残されてしまう時代なので、50%の確信があったらまずスタートして、残りの50%は走りながら確信を積み上げ、結果で証明していく。JACの投資先がそのスピードと勇気を持てるよう、我々はともに走り続けます。